2017年5月30日火曜日

第21回学習会  福島を離れて -国連人権理事会特別報告者 アナンド・グローバー勧告の5年目-

第21回学習会

福島を離れて -国連人権理事会特別報告者 アナンド・グローバー勧告の5年目-


 松本徳子さんは、子どもの健康を守るため福島県中通りの郡山市から神奈川県内に避難。事故直後は卒業間近の娘さんと東京に一時避難、福島帰還後腹痛・下痢・鼻血など娘さんの体調変化から自主避難を決意。当時のゼロ歳児は小学生に、小1生は中学生に、小5生は高校生になった。これまで周囲の無理解、持って行き場のない国や東京電力への不信や怒り、これからの生活や家族の健康に募る不安、奪われる子どもの未来、原発事故避難が引き起こす諸々のできごとをのりこえ、家族の生活を取り戻す、松本さんのことばに耳を傾け、その協同の働きにかかわりたいと願います。

 「避難の協同センター」は、貧困対策・自殺防止・シングルマザー支援などを行ってきた市民団体とも連携し、避難者たちの相談をうけ、住居や生活、法律に関してのアドバイスを提供し、また必要な支援につなげています。

*チラシのダウンロードはこちらからどうぞ!
 
◆講師:松本徳子さん(避難の協同センター 代表世話人)
  
◆日時:2017年6月13日(火) 18:30~20:30
  
◆会場:中野区立商工会館(中野区新井1-9-1)
http://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/162000/d002457.html
JR中央線/総武線、東京メトロ東西線・中野駅北口(徒歩8分)
サンモール、ブロードウェイを抜けた早稲田通り沿い

◆資料代:500円

主催:「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会

連絡先(Mail): jinkenkankokujitsugen@gmail.com
Blog:      http://jinkenkankokujitsugen.blogspot.jp/
Facebook:  https://ja-jp.facebook.com/jinkenkankokujitsugen
Twitter:   https://twitter.com/unjinken

2017年5月5日金曜日

第20回学習会の報告

第20回学習会報告

・テーマ ハーグ条約と親子断絶防止法案
・講師 千田有紀さん(武蔵大学・社会学)
・日時 2017年4月24日(月)午後6時30分~

1、面会交流の現状と問題点

(1)親子断絶防止法案の背景
 戦前は父親のみの親権だったが、戦後、婚姻中は共同親権、離婚後は単独親権とされ、離婚後は、母親の親権が多くなっている。
 これに対し、父親団体を中心として共同親権と面会交流を求める運動の強力なロビーイングがあった。諸外国でも同様の経過を経て、同様の法律が施工されたが、すでに問題が指摘され、改正に向かっている。

(2)面会交流中の事件例
① 子どもが殺害され、父親も自殺-兵庫
② 子どもを預けに来た母親が殺され、その後父親も自殺-長崎
③ 父親が灯油をかぶって自殺を図り、止めようとした子どもとともに死亡-文京
 こうした事件は偶然ではない。面会交流中の殺人事件は、アメリカでは毎年70件ぐらい起きている。

(3)2011年の民法766条改正
  1)改正の内容
 「面会交流その他の交流を協議で定める」としており、その時に「子どもの利益を優先する」というものであって、必ずしも、面会交流を強制しているわけではない。
  2)裁判所による運用
 現実には、裁判所が個別の事案を精査する事なく、面会交流を強制している。
 DVは、夫婦の問題で、子どもの利益とは別とされる。
 子どもの虐待は、よほど明確な立証がないかぎり認められない。
 改正以前はDV、虐待被害を重視していたが、裁判所が急展開で、面会交流の実施に舵を切った結果、上記のような事件が、おきている。今後も起こる可能性が高い。
 家庭裁判所の地位の低さゆえの人員不足があって、充分な精査が行われない。
  3)間接強制
 子どもの面会拒否で、母親とその再婚相手に賠償責任が課された(熊本地裁)。
 面接交流の拒否に賠償金100万円の審判が出た例がある。これは、父親に子どもを連れ去られた外国籍の母親からの請求に基づくものではあったが、面会拒否に100万円という衝撃の影響は大きい。
 DVやストーカーで裁判所が、被害者に会うことを禁止は出来ても、会うことの強制をどこまで出来るのかは問題としてある。


2、親子断絶防止法案の問題点

(1)前提とされている考え方
① 面会交流が子どもにとっての利益である
② 両親のそろった家庭がスタンダード
③ 両方の親に会わせないと健全に育たない(議連会長安岡氏)
 いずれも、根拠のない主張、

(2)単独親権を求める母親が子を連れ去るという事件が頻発している?
① 日本では、離婚後は単独親権と決まっている。
② 連れ去らなくても、母親が親権をとれる可能性が高い。それでも連れ去るのは、DV被害などが想定される場合が多い。その割合は25%と言われている。外国では25~50%という場合もある。
 にもかかわらず、DV被害や虐待は、例外的事項とされている。被害者側に厳密な立証を求める。


  1)フレンドリー・ペアレント・ルール
 離婚相手や面会交流に対して、より寛容な親に親権を与えるという考え方。
 相手を批判するとフレンドリーではないと見なされ親権をえられないため、DV・虐待を訴えられなくなる。
  * 松戸地裁判決の例
 父は子どもと6年間会っていなかったが、年間100日間の面会交流を約束、母親は月1回が限界と主張、裁判所は、父が親権をとれば子はより多く両親と会えるとして、父に親権を与えた。
 年間100日は、母親が毎週土曜日に子を迎えに行き日曜日に返すという想定だが、父と母の住居はかなり離れており、非現実的だった。
  2)片親疎外症候群
 子が父(別居親)に会いたがらないのは、母(同居親)に洗脳されているからとされる。アメリカでは、洗脳を解くために子を母親から離し、精神病院や少年院に入れるということまでされている。子どもが、そこでの酷い扱いに懲りて、父との面会を渋々認めると、マインドコントロールが解けたとされる。
 フレンドリー・ペアレントとセットにされ、深刻な問題となっている。
  * アメリカでは
 産みの親は子に対して生まれながらの権利をもつという法制度になっている。
 ミズーリ州では、強姦犯が強姦の結果出来た子に対しても権利をもち、子どもの事について父の同意が必要とされた事例がある。
 親の権利が強くて、子どもの権利条約を批准していない。
 州をまたいで子どもを連れ出すと誘拐とされ、監護している親の移動の権利がない。
 暴力を振るっていた父親に戻された子どもが、自殺したケースもある。
 アメリカでも、離婚後の親権は75%が母になっている。
 共同親権が、家父長制の延長になっている。別れても相手に対するコントロール権があるというふうに見える。 イギリスやオーストラリアはまた違うのに、そちらの方はほとんど紹介されていない。
 フレンドリー・ペアレント・ルールは問題とされてきており、禁止された州もある。

(4)目的
① 子どもの連れ去りの防止。
② 面会交流の定期的安定的な実施
③ 単独親権を廃止し、共同親権を導入
 別居親(主に父)の権利を重視し、子の福祉を中心とした法案になっていない。
 別居、離婚の前に子の監護について必要なことを決めことになっていて、DV被害者が逃げられなくなる。

(5)子どもの意見表明権の否定
 親子断絶防止法のホームページでは、子どもの意見は聞くなとされている。子どもは同居親(主に母)に洗脳されているとして、子どもの意見表明権を否定している。
 子どもが拒否した場合も同居親の責任が問われるため、面会交流を強要し、同居親と子どもの関係まで悪化する場合がある。
 意見表明権は法案で触れられてはいるが、どのようにするかが不明で、実効性に乏しい。日本の裁判所では、専門家とは言えない調査官が、短時間の面接で判断している。
 諸外国では、小児科医、ソーシャルワーカー、精神科医、教育学者などの連携がある。 少なくともこうした関与が必要。

(6)共同親権の問題
 単独親権でも協力関係は可能。父母の関係が、良ければ、親権のある無しにかかわらず面会交流や子どものための協力は可能。
 双方の関係が悪化し、争いの結果、協力が見込めない状態での共同親権になれば、離婚後も紛争が続くことになる。
 関係が良いと譲り合って単独親権、関係が悪いと対立して、共同親権とパラドックスがある。
 アメリカは、75%が母親の単独親権、15%が父親の単独親権、共同親権は1割程度。 韓国は、父親しか親権を持てなかった状態から、女性も親権を持てるようになったということで、共同親権が歓迎されている。
 また養育費削減のために共同親権を主張する事例もある。
  * 香港(共同親権)の場合
 共同親権は与えて終わりではない。離婚後のフォローがある。親に問題がある場合は、子が18歳になるまで、裁判所が介入する。カウンセラーやソーシャルワーカーもついていて、親に問題があると親権剥奪もある。共同親権の別居親にも真摯に子どもに向き合う義務がある。
  * 日本の親子断絶防止法案では
 同居の親に責任を負わせるが、別居の親には何の責任もない。自分の方から面会交流を断つことも、再開の要求もできる。同居の親と別居の親が不平等な法律になっている。
 法実施のための予算措置がなく、一切の支援が期待出来ない。個別に事案が精査されることがない。

(7)個別事情の軽視
  1)継続的親子関係が常に子どものためなのか
 別居親との面会交流が子どもの利益であるとされている。継続的関係を持つことが望ましい。両親そろっていることがいいという前提になっている。面会交流が子どもの利益にならない場合もあるという事が、想定されていない。
  2)親子関係はそれぞれ異なる
 本来なら、個別のケースについて考慮した上で、家庭裁判所が判断すべきだが、個別の事情まで考慮できる体制はない。面会交流を前提として、他の事情は顧みられない。
 面会交流自体は否定すべきものではないが、それぞれの事情を配慮し、認めるべきでない場合もある。
  3)DV・虐待への特別の配慮
 児童虐待防止法、DV防止法の趣旨に反しないようにということが加わったが、実際の運用がどうなるかは不明。虐待やDVは、例外的扱いとなっていて、厳密な立証責任が求められる。
 「交流を行わないとすることを含めて、配慮がなされなければいけない」とされている。被害者側にとっては、対策に具体的性がなく本当に配慮されるか不安がある。会いたい父親側からは、交流を行わないこととすることを含めて反対がある。

(8)父母の責任で良いのか
  1)地方公共団体等の責任
 親には非常に強い義務があるのに、地方公共団体は、「必要な啓発活動、相談、必要な情報の提供、助言、その他の援助」という程度になっている。
 「定期的な面会、安定的なその他の交流」をすべて父母の責任にしている。行政や裁判所の支援がほとんど期待出来ない。きちんとした専門の部署を設け、人員も配置する予算措置が必要。
  2)裁判所の責任
 会わせろと命令はするが、民間団体のすることを支援となっていて、その後の責任を取らない。少なくとも、フィードバックしてかかわり続けるべき。
  3)行政の訴訟リスク
 行政がDV被害者の保護に抑制的になる可能性がある。DV被害者が子どもと逃げ、加害者に住所を秘匿して、住民票を作ろうとした場合、現状でも時間がかかることが多いが、親子断絶防止法違反を理由に拒否される可能性がある。
 拒否した場合はDV被害者から、保護した場合は相手側から、行政が両方の訴訟リスクを抱えることになる。

(9)差し迫った立法の必要性があるのか
 こういう状態で法律が出来ると、DV被害者が別居しようとした時、足枷になる。
 この法律で問題にされていることは、関係性がうまくいっていない時に焦点化される。父母の関係が良ければ、このような法の有無にかかわらず面会交流は行われる。
 今、面会交流できていない親が、この法によって子どもに会えるわけでもない。
 面会交流をめぐって紛争性が高まり、離婚調停がスムーズに進まない可能性がある。

(10)面会交流の実態(学生へのアンケートから)
  1)別居親の中途半端なかかわりで、子どもが傷つくことがある。
① 父が再婚して面会交流を拒否された。
② 面会交流があった時期も母子の生活は苦しかったが、養育費が払われていなかったことが分かって、父親への信頼が失われた。
 など、ほとんどが否定的な意見だった。
  2)良かった例(1件だけ)
 面会交流の時、父母がそろって、3人で食事をしていた。
 単独で別居親に会いたいのではなく、むかしのファミリーに近い状態で会えることがよい結果となったのではないか。
 取り決めはなくお互いが会いたくなった時に会っていた。

(11)冷却期間の必要性
 面会交流について、出来るだけ早期に実現とされているが、面会交流中の殺人事件は離婚直後に起こっている。
 フランスでは、離婚にはすべて裁判所が関与し、3年別居を条件としている。他の欧州諸国もほとんどが同様の規定を持っている。面会交流問題と離婚にタイムラグがある。
 日本の場合、離婚に伴う様々な問題と面会交流が、両者の紛争性が高まっている中で話し合われる。
 離婚直後の双方が問題をかかえたままの状態で、面会交流が強制され、始まることになる。


3、オーストラリアの親子断絶防止法の失敗 小川富之(福岡大法科大学院教授)

(1)2006年の法律
  1)成立と内容
 父親の権利団体の強力なロビーイングで出来た
 ほぼ日本の親子断絶防止法案に重なる内容
 離婚後の親子面会交流の促進-多い方がよい。それが子どもの最善の利益に合致するという考え方
 フレンドリー・ペアレント・ルール

(2)事前準備と結果
  1)準備
 高葛藤の家族の面会を実施するコンタクトセンター
 家庭裁判所のカウンセラーの利用が可能
 DVや虐待の加害者が定期的に通って治療する機関の設置
 すべての取り決めを裁判所を通して行い、スクリーニングもした。問題がある場合は再検討。
 制度改善の調査のために莫大な予算をつけ、フォローアップを行った
  2)結果
 DVと虐待の多発-フレンドリー・ペアレント・ルールが適用されるため、告発すると親権を失う恐れがあって出来なくなった。
 雇用のない場所で離婚になって親権を分け合ったが、面会交流の確保のため転居出来ず、その地にとどまって、トレーラーハウスに住み、生活保護で暮らさざるをえなかったが、それでも裁判所はその地にとどまるよう判決がでた。
 親権を半々で持った場合、収入が同じだと養育費を支払う必要がないということになっている。養育費の節約のために、親権や面会交流を要求するような事例もある。
 親の権利主張に法的根拠を与えたため、紛争性が高まり、子の福祉に反する事態が生じた。

(3)2011年の法改正
  1)法改正のきっかけ-ダーシー・フリーマン事件
 母親を苦しめるために、弟の目の前で4歳の女児を川に投げ込んで殺害。母親へのDVの一環だった。事態の深刻さが明らかになった。
  2)親の権利よりも子の福祉を重視
 虐待やDVの可能性があれば、明確な証明がなくても、最悪の事態を回避するため、面会制限もやむなしと判断した。(なお不十分という批判はある)
 虐待を主張して証明が出来なくても、でっち上げでない限り、罪には問わない。
 DVは夫婦の問題、虐待は親子感と分けがちだが、子どもの面前で暴力を振るう面前DVを含め、ファミリーバイオレンスとして、問題化した。同居親から虐待が主張されれば、面会をすることが子の福祉に反しないことを証明しなければならない。


4、ハーグ条約(1980年採択)

(1)無理解と誤解
 ハーグ条約は国境を超えた子どもの連れさりが問題で、国内移動は条約の適用外。
 子どもの権利条約に基づいているわけではない-子どもの権利条約成立が後
 ハーグ条約は単独親権が前提で共同親権を求めているわけではない-1979年にカリフォルニアが共同親権になったばかり

(2)成立ち
① 取引法で、物に関する法律だった。何か争いがあった時にどこの法で解決するのかの規定。例えば、公海上で沈んだ船の保障をどこの法律で決めるかといった問題。
② 制定当時は、親権を持つ母親の下から父親が連れ去ることを防ぐのが主な目的だった。 その後共同親権に移行するに従い、問題が複雑化した。

(3)国内論議を経ない批准
 もともとはシンプルな条約で、一番熱心なのはアメリカ。なぜアメリカが熱心かについては、「世界中に軍隊を派遣していて、国際結婚が多いから」とも言われるが、真相は不明。
 日本は批准に消極的(DVを受けた母親が、子を連れて逃げ返るのを保護)だったが、アメリカからの圧力で、ほとんど議論がないまま批准した。従って、理解が進まず、誤解も多い。必要な対策も取られていない。

 以上