2017年1月31日火曜日

第18回学習会の報告

第18回学習会報告

●テーマ 「国家戦略特区と家事支援人材」
●講師 竹信美恵子さん(ジャーナリスト、和光大学教授)
●日時 2017年1月26日(木)19:00~21:00

1.外国人労働者の3つの入口

 これまでの①熟練・高技能労働者=表玄関、②「ブラジル日系人」=表玄関、③実習生という名の偽装低賃金労働者=勝手口、④オーバーステイ・人身売買=裏口に加え、新たに⑤高度外国人人材という表玄関労働力が入れられるように。家事支援人材は⑤のひとつ。①の名のもとに②③に近い労働力を導入し、特区という入れ物に放り込んでその妥当性についての公的論議を封じ込めて強行突破している安倍政権。

2.介護実習生と実習生問題

 産業構造の転換と高齢化、景気の停滞、低福祉を基本にした税の使途によって、法定の賃金を払えない産業(製造業、介護など)が増加した。しかし構造の組み換えをせず、既得権益を維持するために労働者にしわよせ。外国人研修生制度には批判があったので労基法が適用される実習生制度へ変わったが、産業構造は変わらないため、長時間労働、残業代のごまかし、家賃や備品費を不当に高く徴集して賃金を取り戻すことが横行。
 家事労働については先行産業が育っておらず「実習」という枠組みでは無理なため「特区」に。

3.家事労働者問題とは何か

 グローバル化の中で起こる男性雇用の不安定化と女性の労働力化。少子高齢化、公的な財源の不足。女性が働くには保育介護サービスが不可欠なのに公的福祉は後退。その穴を埋めるのが家事労働者。シンガポールや香港がその典型。
 しかし家事労働は危険労働。弱い立場に置かれるため虐待が国際的な問題になり、2011年、ILO家事労働者条約(189号条約)が採択された。日本政府は採択当時、賛成している。

4.なぜ「特区」なのか なぜ「家事支援人材」なのか

 2013年、在日米国商工会議所からの要望を皮切りに急ピッチで進展したと言われている。労働者ではなくサービスのための材で、労働法の規制を飛び越える「特区」の利用が進んでいる。
 国家戦略特区の第一次指定地域としては、東京都、神奈川県、成田市、新潟市、大阪府、兵庫県、京都府、福岡市、沖縄県。
 国家戦略特区を決める「三者統合本部」(特区担当大臣、自治体の首長、企業)には労働組合が入っておらず、経済界がすべて決めてしまう仕組みとなっている。行政と経済界が結託し、規制緩和をどんどん進められてしまうつくり。

5.家事支援人材制度の問題点

 ①「指針」であって、労働法ではないため、訴訟などに発展した場合の効力に疑問、②特定期間を認定する第三者管理協議会には政府機関のみが入っており、労働法を決める際の基本条件である政労使合意の場はない、③研修でもないのに労働者は3年で帰国させられる。

6.導入状況

 神奈川県が参入希望業者からの申請の受付を始め、8社(パソナ、ベアーズなど)前後が参入を希望し、この4月から計70~80人程度の受け入れ見込み。大阪ではこれから特区諮問会議の審議→首相の認定→相手国との調整→6月から事業実施の見込み。導入後の実態はまだ不明。

7.日本社会になにをもたらすのか

 低福祉社会の下支えと福祉サービスの自己責任化をもたらすだろう。「税金による福祉」から「自分で買う福祉」へと変わる可能性がある。また、同一労働同一賃金の名のもとに、日本の家事・福祉労働者全体の人件費を最低賃金レベルへと下げていく可能性がある。

8.家事労働者の受け入れに必要なこと

―家事労働者の労働権確保による家事サービスの質向上と社会的緊張の緩和
―家事労働者のための独自の相談窓口の設置。たとえば既存ユニオンのHPなどにリンクを貼り、労働側からの苦情受け皿づくりへ。フェイスブック労働相談のような取り組みを拡大。
―家事サービスを自前購入して済む一般労働者の労働時間規制
―最低賃金の引き上げの重要性
―国際基準の同一(価値)労働同一賃金制
―「財政難だから社会保障削減」の発想転換
―家事労働者条約の批准運動
―サミットへの申し入れ、権利チェックリストなどの働きかけの強化
―日本社会の家事福祉労働の価値の見直し

9.外国人労働者全体に必要なこと

 労働者は人。労働力には人がついてくる。労働力としての部分利用とご都合主義から抜け出し、人として受け入れる道を考えることが現実的な選択。「安い労働力」から「必要な労働力」へ。

●質疑応答・意見

 すでに始まっている特区のチェックシステム、チェックリストの内容、日本人の福祉労働者の現状、アメリカでの家事労働の現状、フェイスブックの取り組みなどの拡大、実習生制度との比較などについて質疑応答・意見があった。

2016年11月28日月曜日

第18回学習会「『外国人労働者拡充』の問題について」

第18回学習会 「外国人労働者拡充」の問題について


 2016年11月に「技能実習制度適正化法」が成立し、外国人の在留資格に新たに「介護」を設ける「出入国管理及び難民認定法」の「改定」が行われました。実習期間も最長5年間に延長されます。

 有料老人ホームからは「介護を担う人が不足しているため、外国人にすがるしかない」などの反応がありました。人手不足を安価な働き手で補い、しかも短期的に受け入れることはどのような結果をもたらすのでしょうか。本当にこの政策で外国人労働者の「労働権」が守られるのでしょうか。

 国内外から「奴隷」と批判される劣悪な労働環境のもとに実習生は置かれています。時間外労働や賃金の不払いも過去最多になっているのが現状です。2014年4月に亡くなったフィリピン人男性は、2016年8月に過労死として労災が認められました。外国人労働者の「人権」は、今後きちんと保護されるのでしょうか。

 そして、この問題が日本全体の労働環境にどのような影響を与えるのかも含め、自分や周囲の人たちの労働環境と重ねあわせながら、一緒に考えていきましょう。

*チラシはこちらからどうぞ!


◆講師: 竹信三恵子さん

(ジャーナリスト、和光大学教授。元朝日新聞経済部記者。2009年に貧困ジャーナリズム大賞受賞。『ルポ賃金差別』『家事労働ハラスメント』など著書多数。)


◆日時: 2017年1月26日(木) 19:00~21:00


◆会場:スマイルなかの 4階 多目的室
(中野駅北口より徒歩7分/中野区中野5-68-7)
http://www.nakanoshakyo.com/access/

◆資料代:500円

主催:「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会

連絡先(Mail): jinkenkankokujitsugen@gmail.com
Blog:      http://jinkenkankokujitsugen.blogspot.jp/
Facebook:  https://ja-jp.facebook.com/jinkenkankokujitsugen
Twitter:   https://twitter.com/unjinken

2016年11月23日水曜日

国際立憲主義の実現を! 〜国連人権勧告と憲法〜  賛同のお願い

12・10国際立憲主義の実現を! 〜国連人権勧告と憲法〜

賛同のお願い



 「国連・人権勧告の実現を!実行委員会」では、様々な人権課題に取り組む個人や団体が、連帯して活動しています。日本社会の人権課題は、改善されるどころか、むしろ後退していると言っても過言ではありません。人権意識の向上のため、世論に訴えていくことが重要です。ぜひ実行委員会の活動にご賛同をいただき、デモと集会へご参加いただければと思います。

★ 賛同者・賛同団体を募集しています。賛同いただける場合は、実行委員会までお知らせください。
     メール jinkenkankokujitsugen@gmail.com
     ファックス 03-3819-0467

★ 賛同金は一口1,000円です。団体の方はできるだけ複数口でお願いします。お振込先は次の通りです。
      加入者名 国連人権勧告実現
      ゆうちょ銀行から 振込口座 00100-6-264088
      ゆうちょ銀行以外から  019支店 当座 0264088

なお、振込手数料はご負担くださいますようお願いいたします。また、当日プログラムにお名前を掲載させていただきますが、掲載を希望されない場合はその旨お知らせください。

*領収証の発行が必要な場合は、実行委員会までお知らせください。


=====<< 賛同者・賛同団体一覧 >>=====

(2016年12月28日現在)

<団体>

全国「精神病」者集団   
国際人権活動日本委員会   
朝鮮・韓国の女性と連帯する埼玉の会   
朝鮮学校生徒を守るリボンの会   
外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉   

「高校無償化」からの朝鮮学校差別に反対する連絡会   .
東京朝鮮高校生裁判を支援する会   
差別・排外主義に反対する連絡会   
「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会   
日朝国交正常化をすすめる神奈川県民の会   

ATTAC Japan(首都圏)
「日の丸・君が代」の法制化と強制に反対する神奈川の会   
フォーラム平和・人権・環境   
ARP(アンチレイシズムプロジェクト)   
在日本朝鮮人人権協会

「日の丸・君が代」強制に反対する予防訴訟を引き継ぐ会   
国連に障がい児の権利を訴える会   
ピースボート   
関東大震災朝鮮人虐殺の国家責任を問う会
日本友和会(JFOR)   

地球的課題の実験村杉並   
なくそう戸籍と婚外子差別・交流会   
子どもと教科書全国ネット21   
部落解放同盟東京都連合会
個人情報保護条例を活かす会(神奈川)   

チマ・チョゴリ友の会   
府中緊急派遣村   
全ての学校に高校授業料無償化を!練馬の会   
wam (女たちの戦争と平和資料館)   
「朝鮮学校のある風景」編集部   

アイヌ・ラマット実行委員会
「良心・表現の自由を!」声をあげる市民の会  
東京・教育の自由裁判をすすめる会
全石油昭和シェル労組   
子どもと女性の人権を考える東京の会 
  
「戦争と女性への暴力」リサーチアクションセンター(VAWW RAC)   
部落解放同盟中央本部   
部落解放同盟練馬支部   
東京都高等学校教職員組合   
沖縄のたたかいと連帯する東京南部の会   

慰安婦問題解決オール連帯ネットワーク
朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動  
ヘイトクライムをなくそう神戸連絡会  
東京公立学校教職員組合  
アジア女性資料センター  

認定NPO法人ヒューマンライツナウ
NPO法人レインボー・アクション



<個 人>

森脇栄一 
石山久男  
斎藤紀代美  
池田幸代  
森本孝子  

軽部哲雄
中澤悟  
榎本みつ枝  
清水孝一  
山城由紀江  

池田幹子  
石川哲朗
山内覚  
京極紀子  
岩木俊一  

中野宣子  
尾澤邦子  
小林英三
大槻和子  
豊巻絹子  

黒田恵  
関田寛雄  
坂和優  
片山むぎほ
川浪寿見子  

長谷川和男  
徳永恭子  
新井史子  
木下貴美子  
野副達司

石川美紀子  
矢野恭子  
谷野隆  
柳沢由実子  
田中聡史  
渡辺保雄

石下直子  
小林信次  
野口敏雄  
毛利勇二  
外山喜久男  
堀純

近藤徹  
丹羽雅代  
渡辺厚子  
柚木康子  
三上雅宏  
岩崎わか  

渡辺吉男  
田場祥子  
中原道子  
井桁碧  
山田恵子  

山口明子
松野哲二  
寺尾光身  
横原由紀夫  
郡司實  
中村利也  

賀谷恵美子
保田千世  
佐野通夫  
遠藤真子  
宮谷則子 
 
岡田良子  
高木澄子 
西中誠一郎  
谷口滋  
権順華  

大野圭子  
笠井賢哲  
坂本繁夫
花松五穂  
與芝豊

2016年9月29日木曜日

国際立憲主義の実現を!~国連人権勧告と憲法~ 集会のお知らせ


━━━ ☆☆☆ 12・10 国際立憲主義の実現を! ☆☆☆ ━━━
◇◆◇ ~国連人権勧告と憲法~ ◇◆◇



 安保法制反対運動を通して、日本でも立憲主義に対する理解は深まりました。しかし戦後「平和憲法」の下でも、国際人権基準の実現には程遠いのが現実です。日本政府は「国連勧告に従う義務はなし」と閣議決定したこともあります。

  「国連人権勧告の実現を!」実行委員会は、様々な人権課題に取り組む団体や個人のネットワークで、政府に国連人権勧告の履行を求めています。

 国連「世界人権デー」の12月10日、「国際立憲主義の実現」を求めて集会を行います。沖縄の人権」を世界で訴えてきた島袋純教授(琉球大学)に基調講演していただきます。

 この実行委員会を作る契機となった朝鮮学校差別問題や、政府間の妥協江で被害当事者の人権回復が無視されている日本軍「慰安婦」問題や相模原障害者殺傷事件で、改めて問われている障害者の人権も取り上げます。

 平和憲法が実現すべき国際人権基準の現状を考え、人権課題に正面から向き合ってこなかった日本政府を、私たちの手で変えていきましょう。


☆ ━━━━━ ☆ ━━━━━ ☆ ━━━━━ ☆ ━━━━━━ ☆

<日時>
2016年12月10日(土) 14:00~16:30(開場13:30)

<集会会場>
山学院大学 9号館940教室
(※本多記念国際会議場から変更になりました)

東京都渋谷区渋谷4-4-25
JR山手線、JR埼京線、東急線、京王井の頭線、東京メトロ副都心線 他「渋谷駅」より徒歩10分
東京メトロ(銀座線・千代田線・半蔵門線)「表参道駅」より徒歩5分
http://www.aoyama.ac.jp/outline/campus/access.html
http://www.aoyama.ac.jp/outline/campus/aoyama.html

★☆★☆★☆★☆ キャンドル・デモも行います! ★☆★☆★☆★☆

<デモ集合場所> 宮下公園(渋谷区神宮前6-20-10)
<出発時間> 17:20
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/park_miyashita.html

約30分のキャンドル・デモです。是非、ご参加ください!

……………………………………………………………………………

【集会プログラム】

◇朝鮮高校生によるダンス

◇基調講演  島袋純教授(琉球大学)

◇課題別報告

 ・朝鮮学校「無償化」問題
 ・日本軍「慰安婦」問題
 ・障害者の人権
 ・日の丸・君が代
 ・外国人労働者
 ・福島・原発
 ・性的少数者
 ・婚外子差別と憲法24条・家族条項

……………………………………………………………………………
【基調講演 講師プロフィール】

島袋純。琉球大学教授。西欧諸国における自治州政府の確立を欧州連合の文脈に位置付けて把握、帰国後沖縄の自治の研究を再開し、沖縄自治研究会を設立。05年、沖縄の学術文化、地域経済の発展の基盤となる研究者とその研究を顕彰する「沖縄研究激励賞」を受賞。主な業績として、『「沖縄振興体制」を問う』(法律文化社 2014年)、『沖縄が問う日本の安全保障』(岩波書店2015年)。現在日本平和学会・日本行政学会の理事。2014年7月結成の沖縄建白書を実現し未来を拓く島ぐるみ会議に関わり、現在事務局次長及び国連部会長を務める。2013年3月沖縄国際人権法研究会を立ち上げ共同代表。


<主催>
国連・人権勧告の実現を!実行委員会
青山学院大学人権研究会

*チラシのダウンロードはこちら()からどうぞ!

E-mail:jinkenkankokujitsugen@gmail.com
URL:http://jinkenkankokujitsugen.blogspot.jp/
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/jinkenkankokujitsugen
twitter:https://twitter.com/unjinken
Tel:090-9804-4196(長谷川)

☆ …………………………………………………………………………………… ☆

 「国連・人権勧告の実現を!実行委員会」では、様々な人権課題に取り組む個人や団体が、連帯して活動しています。日本社会の人権課題は、改善されるどころか、むしろ後退していると言っても過言ではありません。人権意識の向上のため、世論に訴えていくことが重要です。ぜひ実行委員会の活動にご賛同をいただき、集会へご参加いただければと思います。
 
 
★ 賛同者・賛同団体を募集しています。賛同いただける場合は、実行委員会までお知らせください。
     メール jinkenkankokujitsugen@gmail.com
     ファックス 03-3819-0467

★ 賛同金は一口1,000円です。団体の方はできるだけ複数口でお願いします。お振込先は次の通りです。
      加入者名 国連人権勧告実現
      ゆうちょ銀行から 振込口座 00100-6-264088
      ゆうちょ銀行以外から  019支店 当座 0264088

なお、振込手数料はご負担くださいますようお願いいたします。また、当日プログラムにお名前を掲載させていただきますが、掲載を希望されない場合はその旨お知らせください。


2016年9月15日木曜日

第17回学習会の報告

第17回学習会報告

●テーマ 「国連勧告から見た琉球・沖縄-自己決定権と「先住民族」」
●講師 上村英明さん(市民外交センター代表・恵泉女学園大学教授)
●日時 2016年9月13日(火)19:00~21:00
●場所 ピースボート事務局(高田馬場)


●内容報告

はじめに

 自己決定権は人権である。しかし、日本では人権や平和に関心がある人であって
も、これを理解してもらうのが難しい。
 国連総会特別会期2014年の国連先住民族会議(於、ニューヨーク)で糸数慶子さん
が琉装をして発言をした。現在、国連では先住民族という主体を国連加盟国と対等に
どう扱うのかというポジションの検討をしている。先住民族という概念は、それほど
に強い概念だ。

1.「沖縄」に対する国連・人権勧告とは何か

 社会権規約委員会(2001年)、自由権規約委員会(2008・2014年)、人種差別撤廃
委員会(2010・2014年)より、琉球・沖縄の人々に対する法律上および事実上の差別
の撤廃、先住民族としての認定、土地および天然資源に対する権利の保障、琉球の権
利の促進・保護に関する問題についての締約国と琉球の代表との協議の強化などが勧
告されている。

2.「沖縄」に関する人権勧告の背景

1)「沖縄県」における米軍基地の問題は、反戦・平和・反基地の問題と考えられて
きた。日本全体の安全保障や環境保護の問題と考えられてきたため、人権の問題だと
は従来考えられてこなかった。

2)大田昌秀知事の代理署名拒否(1995年)と最高裁判決での敗訴(1996年)を機
に、松島泰勝さん(現龍谷大学教授・2013年に琉球民族独立綜合研究学会を設立)が
国連人権機関である国連先住民作業部会(WGIP)に参加し(1997年)、その後琉球人
の自己決定権を軸に先住民族の権利を主張する「琉球弧の先住民族会(AIPR)」が琉
球人によって結成された(1999年)。こうして、「沖縄」が国際人権上の問題となっ
た。

3.その後の動き①翁長知事の国連演説

 2015年9月22日、翁長知事が国連人権理事会で演説をした。演説時間は2分間しかな
かったため、シンポジウムも開催し、その中で翁長知事は沖縄の現状を歴史的背景か
ら考える必要性について話した。翁長知事は、菅官房長官とのやりとりで最もすれ
違った点は「歴史認識」だったと話していた。

4.翁長知事・国連演説全文(日本語仮訳)

「議長、ありがとうございます。日本の沖縄県の知事、翁長雄志です。
 私は、沖縄の自己決定権がないがしろ(neglect)にされている辺野古の現状を、
世界の方々にお伝えするために参りました。
 沖縄県内の米軍基地は、第2次大戦後、米軍に強制的に接収され、建設されたもの
です。私たちが自ら進んで提供した土地は全くありません。
 沖縄の面積は日本の国土のわずか0.6%ですが、在日米軍専用施設の73.8%が沖縄に
集中しています。戦後70年間、沖縄の米軍基地は、事件、事故、環境問題の温床と
なってきました。私たちの自己決定権や人権が顧みられることはありませんでした。
 自国民の自由、平等、人権、民主主義も保証できない国が、どうして世界の国々と
こうした価値観を共有できると言えるのでしょうか。
 日本政府は、昨年、沖縄で行われた全ての選挙で示された民意を無視して、今まさ
に辺野古の美しい海を埋め立て、新基地建設を進めようとしています。
 私は、考えられうる限りのあらゆる手段を使って、辺野古新基地建設を阻止する決
意です。
 今日はこのようにお話しする場を与えて頂き、まことにありがとうございまし
た。」

5.翁長知事・国連演説全文(英語正文)

“Thank you, Mr. Chair.
  I am Takeshi Onaga, governor of Okinawa Prefecture, Japan.
  I would like the world to pay attention to Henoko where Okinawan’s right
to self-determination is being neglected.
  After World War 2, the U.S. Military took our land by force, and
constructed military bases in Okinawa. We have never provided our land
willingly.
  Okinawa covers only 0.6% of Japan. However, 73.8% of U.S. exclusive bases
in Japan exist in Okinawa. Over the past seventy years, U.S. bases have
caused many incidents, accidents, and environmental problems in Okinawa.
  Our right to self-determination and human rights have been neglected.
  Can a country share values such as freedom, equality, human rights, and
democracy with other nations when that country cannot guarantee those values
for its own people?
  Now, the Japanese government is about to go ahead with a new base
construction at Henoko by reclaiming our beautiful ocean ignoring the
people’s will expressed in all Okinawan elections last year.
  I am determined to stop the new base construction using every possible and
legitimate means. Thank you very much for this chance to talk here today.”

6.国連人権勧告への反対運動①

 豊見城(とみしろ)市議会の決議「国連各委員会の「沖縄県民は日本の先住民族」と
いう認識を改め、勧告の撤回を求める意見書」(2016年12月22日)では、「先住民の
権利を主張すると、全国から沖縄県民は日本人ではないマイノリティとみなされるこ
とになり、逆に差別を呼び込むことになる」などという非常に差別的な内容が書かれ
ている。この動きから、同様の意見書採択の要請が現在、沖縄の全市町村に回ってい
る。

7.国連人権勧告への反対運動②

 「沖縄対策本部」というNGOができており、国連人権理事会での発言などを通じて
「先住民族勧告撤回要求活動」を行っている。
 また、宮崎政久という沖縄選出の自民党衆議院議員が「国連先住民族勧告の撤回」
のために活動している。

8.国連勧告への積極的な対応:琉球新報

 琉球新報では、「沖縄問題は民族差別」だとする佐藤優さんの主張を掲載するな
ど、積極的に国連勧告に対応している。

9-10.先住民族の権利とは何か?

 先住民族と一口に言っても、簡単に定義できるものではない。国連の「先住民族の
権利に関する宣言(Declaration on the rights of Indigenous Peoples)」(2007
年採択)では、様々な権利を失った人たちとされている。自己決定権、同化を強制さ
れない権利、教育の権利、伝統医療と保健の権利、土地・領域(土)・資源に対する
権利、国境を越える権利など。
[参考]
先住民族の権利に関する国際連合宣言(市民外交センター訳)
http://goo.gl/F5YpZA

11.「人民の自己決定の権利」とは?

1)「人民の自己決定権利」=the right of peoples to self-determination
 1945年の「国連憲章」において、「人民」が国際社会の主体になった。それまで
は、主体はnation=ヨーロッパ型の政治システムを持った集団であった。

2)人権の土台としての「人民の自己決定権」
 1966年採択の「国際人権規約」(自由権・社会権規約)の第1条1項で「すべての人
民は、自己決定の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民はその政治的地位
を自由に決定し、並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追及する。」と
定められ、個人の人権の土台に自己決定権が想定された。

3)「人民の自己決定権」を行使する主体の認定
 「人民の自己決定権」を不当に奪われた人々の権利回復や「植民地」の解放=脱植
民地化に関するもの。

12.植民地解放(脱植民地化)と先住民族
*「歴史的不正義」(植民地支配)にどう向き合うか

1)日本政府の基本的姿勢
・第2次世界大戦の敗戦によって、すべて放棄
・過去のことは水に流して、「現実的に」「未来志向で」
⇒「植民地支配」という「歴史的不正義」を忘却する…

2)脱植民地化への国際的な流れ
・1918年 植民地解放という政治的課題:「ウィルソンの14カ条」
・1945年 国連憲章での明記(「非自治地域」及び「信託統治」)
・1960年 植民地独立付与宣言=脱植民地化の強化、促進
 ⇒宗主国の恣意的な操作によって公正さに欠ける
・1980年代 公正な脱植民地化実現のための「先住民族」問題の登場

13.琉球併合の検証:合法か非合法か

1)琉球近代史の再検証
 「琉球国」は西欧や中国と対等な国家として振舞っていた。中国とは「朝貢体制」
にあった。1879年、国際法(ウィーン条約法条約)に違反した日本への武力併合が行
われ、その後、理不尽な植民地政策が行われた。戦前に国内行政制度を実施せず「沖
縄県政」による支配をし、1920年代の「ソテツ地獄」のように琉球経済を植民地化し
た。また「方言札」「改姓改名運動」など、皇民化政策と差別を行い、沖縄戦では
「沖縄語を話す者はスパイとみなせ」とされながら住民虐殺が行われた。そして1945
年ニミッツ布告(旧琉球王国領における日本の行政権の停止=琉球の分離)により、
米軍軍政下へ分離された。

2)戦後の沖縄史への継続
 基地用地が接収され、軍事基地が建設された。

14.琉球王国(1429年~1879年)の存在
(写真説明。首里城の屋根の上にはシャチではなく龍が飾られている。中国の影響)

15.琉米修好条約の締結(1854年)

(写真説明。琉球政府は中国語を使って条約を作成した)

16.日本による武力併合と支配(1879年)

(写真説明。首里城は日本軍により包囲され、琉球国の廃止後、首里城は軍事基地と
された)

17.改正改名運動(1940年代)

(写真説明)沖縄には帝国大学が設置されず、本土の大学に進学する際に日本人に読
みやすい名前に変えさせられるなどの「改姓改名運動」が行われた(例:「東恩納
(ひがおんな)⇒東(あずま)」「知念(ちねん)⇒本田(ほんだ)」など)。

18.戦後、米軍による「琉球」の分離

 (写真説明。米軍統治時代に分離された南西諸島は、ほぼ旧琉球王国の版図[1946
年1月29日⇒1972年5月14日]。「米軍の沖縄占領は両国の利益になる」という主旨の
天皇メッセージ(1947年)の存在)

19.自己決定権をめぐる動き:2015年

 琉球新報の連載と出版(6月)、国際シンポジウム「道標求めて―沖縄の自己決定
権を問う」の開催(2月)。
[参考]
琉球新報社・新垣毅『沖縄の自己決定権 その歴史的根拠と近未来の展望』
http://www.amazon.co.jp/dp/4874985696

20.「琉球」の論理の転換と市民の動き

1)新しい市民・社会運動の視点
・1999年2月 「琉球弧の先住民族会」の設立
・2013年5月 「琉球民族独立総合研究学会」の設立
・2014年5月 琉球新報社による「琉球の自己決定権キャンペーン」
・2014年7月 「沖縄建白書を実現し未来を拓く島ぐるみ会議」の設立⇒「島ぐるみ
会議」が翁長知事の推薦団体であり、「オール沖縄」の土台

21.さいごに:「琉球人」に自己決定権があれば…

 「日本」と「琉球」は対等であり、「琉球人」には固有の歴史、文化を守る権利が
ある。自己決定権の基本的な意味は、他の者が代弁してはならないということである
から、「日本政府」は「琉球政府」の代弁をできない(平和や反戦という視点でみる
と、運動家も代弁しがちになるが、自己決定権の視点でみると代弁はできない)。
「琉球」の空間・土地・資源には「琉球人」の基本権があり、「琉球政府」には、基
本的な内政・外交権がある。脱植民地化とは、歴史的正義の実現であり、「琉球人」
のアイデンティティを確認することは、本来の多様な社会の実現へとつながる。

●質疑応答・意見

1.自己決定権という言葉が非常に重いということがわかった。現在、恣意的拘禁の
作業部会の日本訪問に向けて活動しており、私たちも自己決定権という言葉を使った
りするのだが、恣意的拘禁の問題と自己決定権の関わりについて意見を聞かせてほし
い。
 ⇒自己決定権という権利はとても重要な権利であるし、その言葉の性質上広範囲に
使える言葉。もともとは、国家をつくることのできる権利を意味するが、どんどん
使ってほしい。恣意的拘禁の問題についてはあまり分からない。

2.本日話された内容にはとてもシンパシーを覚えるが、実現可能性で考えると、た
とえば土地や資源の権利については、ハードボーダーに基づいたものが国だと考える
とき、それと両立するのか?
 ⇒1997年当時は、松島さんしかこの問題の意味を分かっていなかった。それが2015
年、翁長知事は市民外交センターというNGOの枠を使って発言した。こう考えると、
1997年に比べるとかなり広がってきたと思う。
たとえば最近では、王子製紙や日本製紙などの企業が、正しい森林資源の活用をして
いる企業がもらえるFSC(Forest Stewardship Council)のマークをもらうために、
アイヌ民族と話をしなくてはいけないという流れが出てきている。なぜなら、先住民
族の権利を侵害して森林を伐採すると違法伐採になり、FSCのマークをもらえないた
め。今まででは考えられないような動きである。
歴史的な正義を日本では軽視しがち。しかし、正しいロジックで正しいことを主張す
る。原理原則を大事にしながら、応用もしっかりやっていけば、時間はかかっても可
能性はあると思う。

3.2007年の先住民族権利宣言が出たとき、琉球の問題はどう扱われたのか?
 ⇒沖縄の人々がこのレベルで考えるというのはハードルが高かった。琉球には独自
の新聞や大学、弁護士がおり、アイヌの人々に比べたら潜在的な力がある。しかし、
いろんな人がいるぶん、どういうポイントで主張や運動やっていくかというところで
揺れる。アイヌ民族は、民族としてのアイヌが存在し、それが否定されてきたという
点に関してはブレない。
 大いに協力しているが、島袋純さんというスコットランド研究者は、琉球という
「地域」に、スコットランドと同様に本来自己決定権があったという主張をされてい
る。

4.国連加盟国と先住民族が対等になっている例はあるのか?
 ⇒先住民族は自治権を超えた権利を持っている。加盟国とNGOの間に微妙なステー
タスがあり、たとえばパレスチナ解放機構(PLO)や赤十字国際委員会(ICRC)は、
NGOを越えて、政府のようなステータスを持っている。北欧のサーミ民族はサーミ評
議会を持っていて、それは4つの国境を越えており、4つの国と5つの政府があると
表現される。そうすると、NGOよりも強い政府に近い地位を与えなくてはいけないの
ではないかという議論が出てきており、まさにこれが現在の国連と先住民族の大きな
課題となっている。

5.今月16日に代執行訴訟の判決が出るが、展望は?
 ⇒日本の司法に対しては悲観的だが、司法の機会を使っていくことは大事。たとえ
ばアイヌの二風谷ダム裁判は、札幌地裁の裁判官に資料をたくさん渡して、すごく勉
強してくれた結果、負けると思っていたが勝った。判決では、本来のアイヌの土地に
日本の統治が入ったという事実を認めた。可能性はあると思っている。