2018年12月15日土曜日

12・15 私たちの声を国連へ ~国際基準から見た日本の人権状況~ 新倉修さん講演録より抜粋

「国際法から見た日本の刑法・人権状況」(講演録より抜粋)

新倉修(青山学院大学名誉教授/日本国際法律協会理事)

  安倍政権は、「国連勧告に従う義務はない」ということを閣議決定しました。これはとんでもないことです。今年は、世界人権宣言70周年にあたる年で、世界中で、70周年を記念する催しが行われています。お隣りの韓国では、文在寅大統領が70周年を祝うスピーチをしました。安倍首相はそれを拒んでいます。小学校の道徳の教科書には、世界人権宣言が谷川俊太郎さんの分かりやすい翻訳で紹介されているものがあります。しかし、文科省の検定に合格した8社の小学校の道徳の教科書の中で、世界人権宣言を取り上げているのは光村図書1社のみ。しかも、世界人権宣言を教えることが学習指導要領にないので、単元ではなく、コラムとして取り上げています。世界人権宣言はバイブルよりたくさんの言語に翻訳されているほど普遍的なものです。これを子どもたちに教えないのは、人権を求めて闘い、獲得してきた国際社会の潮流に反します。マグナカルタ(イングランド王国)、権利の章典(イングランド王国)、人および市民の権利宣言(フランス王国)、世界人権宣言、人権および基本的自由の保護に関する条約(ヨーロッパ人権条約)、ウィーン宣言、人権理事会の設置など国際社会の長年に渡る人権確立の取り組みを現在の日本政府は軽んじています。国連憲章の第9章第55条C項には、人種、性、言語または宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守することが定められてます。さらに、第56条には、すべての加盟国は、第55条に掲げる目的を達成するために、この機構と協力して、共同及び個別の行動をとることを誓約することとなっています。つまり、日本政府の「国連勧告に従う義務はない」という閣議決定は、国連憲章のこの条項に反するわけです。日本は国連設立時の原加盟国(51カ国)ではありません。日独伊を敵国とする敵国条項(第107条)もまだ改正されていません。日本は国際社会と歩調を合わせていくと約束したので国連加盟を認められたのに、今は金持ちになったんだから何をしてもいいというような態度をとっています。しかも、安全保障理事会の常任理事国になりたいと言っています。ウィーン駐在の元日本大使は国連越境組織犯罪条約の締約国会議に参加したとき、立法を早く通して条約を批准しないと日本は国際社会で非常に肩身の狭い思いをすると発言しました。日本は9つの国際人権条約履行確保委員会に7人の委員を派遣しています。人権機関への拠出金もトップクラスです。それにも関わらず、数々の人権勧告を履行せず言い訳ばかりしています。肩身の狭い思い……というのなら、まず、こうした状況を恥ずかしいと思って欲しいものです。
 
 2013年、国連拷問禁止委員会で、モーリシャスの委員が「日本は自白に頼りすぎではないか。これは『中世』の名残である」と言って、日本の刑事司法制度を批判したことがありました。これに対し、日本代表である外務省人権人道担当大使・上田秀明氏は「日本は『中世』ではない。我々は、この分野(人権問題)において最も進んだ国家である」と発言しました。これには、会場の一部から笑いが起きました。これに対し、上田氏がさらに、「なぜ笑うのか! シャラップ! シャラップ!」と、「シャラップ」を連呼しました。この状況が今の日本政府の人権感覚の欠如を象徴しています。2018年には13人の死刑執行が行われ、世界を驚愕させました。死刑のことを批判されると、世論が支持しているとか、日本の文化だと言い分けします。ところが、英国は死刑を支持する世論があっても、50年前に死刑を廃止しました。やろうという政治意思があればできます。日産のゴーン会長を東京拘置所に長期間勾留しているのもおかしい。カナダで、中国の国際通信機器大手、ファーウェイの副会長の孟晩舟氏が逮捕されましたが、すぐに保釈されました。あれが世界標準です。日本の刑事司法制度が中世のままだと批判されても当然なのです。
 
 2017年、国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタチ氏が、日本の共謀罪法案に対して、「プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある」と懸念を表明したことがありました。これについて菅官房長官は「個人として述べたもので、国連の勧告ではない」と述べました。さらに外務省は、G7で、安倍首相が国連のグテーレス事務総長と会談した際に、グテーレス事務総長が「特別報告者は国連とは別人格であり、その報告は必ずしも国連の総意を反映するものではない」と述べたと説明しました。これは明らかに外務省のミスリードです。国連の総意とは何でしょう。総意とは総会で決議したものを指します。特別報告者のジョセフ・ケナタチ氏は単なる個人ではなく、人権理事会の委嘱を受けて調査し、報告しているわけです。その報告は国連総会でも報告され、承認されます。承認されたことは国連の総意です。決して無視できるようなものではありません。マスコミが政府の見解を無批判に報道しているのも問題だと思います。 

 最後に、国連の「人権のために立ち上がろう!」というポスターをご覧ください。まさにこの通りだと思います。人権のために立ち上がりましょう!