国連・人権勧告の実現を!
~なぜこんなに冷酷なことができるのか? 外国人の人権からみた日本~
2021年12月10日 世界人権デーに 参議院議員会館にて 14:00~16:30
集会の報告
問題の多い日本の入管政策に影響を与えたい!と2021年は、参議院議員会館で行った。当日配布の資料の中には、これまでで最多の国会議員30名から送られたメッセージを掲載。参加者172人は、アメリカ国務省から「人身売買と闘うヒーロー賞」を受賞した指宿弁護士の基調報告と、2人の特別報告を熱心に聞き入った。
一、基調講演 指宿昭一弁護士
[なぜこんなに冷酷なことができるのか?-使い捨て外国人 人権なき移民国家 日本]
指宿弁護士は、いま外国人住民は約300万人、外国人労働者は200万人に迫る時代となり、彼らは私たちと共に、日本社会を支えているのですと話し始めた。
名古屋入管スリランカ人女性死亡事件
スリランカで英語教師をしていたウィシュマさんは、1917年6月に留学生として入国。同居のスリランカ男性からのDVで、日本語学校に行けなくなり除籍となり、2019年1月在留資格を失った。
2020年8月警察に出頭。DV被害者としての保護ではなく、不法滞在者として名古屋入管に収容された。当初帰国予定だったが、同居男性からの「帰国したら、探し出し罰を与える」の脅迫状に恐怖を覚え、在留希望に転じた。同居男性も不法滞在で、逮捕された。
収容中に体重は激減し、2021年2月15日の検査結果では、「飢餓状態」のかなり危険な数値が出たが放置された。3月4日には、外部の精神科を受診させたが、入管は医師に「詐病の疑い」と伝えた。医師は「仮放免すれば良くなる」と文書を書いた。3月5日には脱力状態となり、3月6日に死亡。病院に緊急搬送された時には、すでに死亡していた。体重は、収容時から21.5kg減少していた。このどこかの時点で救急車を呼べば、助かっていたかもしれない。入管の医療体制は、非常勤の医師が週2回2時間くるのみであり、入管が決めた範囲でしか医療をさせず、国家権力が医療を牛耳っている。
2007年から収容中の人が、17人亡くなっている。このうち5人は自殺である。
ウィシュマさんの亡くなる週間前からのビデオがあるが、遺族にはほんの少ししか見せていない。指宿弁護士もほんの少しだけ見たが、衰弱していく様子がよくわかる。呻き声が叫び声になり、最後には泣き声になっていった。
いま名古屋入管を未必の故意の「殺人罪」で、告訴している。
入管政策の根本的問題
入管の管理政策は、戦前の植民地政策に根源がある。侵略拡大の中で、植民地出身者の韓国や中国の人々を徹底して管理した。
植民地を開放するとき、旧宗主国に居住する旧植民地出身者に対しては、国籍選択権や居住権を与えることが多い。しかし日本では、国籍選択権等を与えず、一方的に国籍を奪い、外国人を危険人物として治安対策の対象としてきた。戦争責任をあいまいにしたまま、入管は「外国人を敵視し、徹底して管理する」という政策を維持している。
大きな問題は、原則「全件収容主義」の入管収容である。刑罰ではない「収容」は、本来、強制送還の準備のためのものであるのに、帰国すると言わせるための拷問として使われ、裁判所などの第三者のチェックはなく、入管の裁量で行われ、無期限である。
今年入管法改悪(案)が国会に提出された。難民申請中の人には、強制送還はできない。これを2回までの申請はいいが、それ以上だと強制送還できるようにし、強制送還に応じないことを犯罪として処罰するという(案)であった。これを廃案にしたのは若者たちを中心とした市民運動、そしてウィシュマさんの事件で遺族が声をあげたことも大きかった。しかし、再び提案される恐れがある。
熊本ベトナム人技能実習生孤立出産事件
ベトナム実習生のリンさん(20歳)が、2020年11月15日双子を死産した。遺体をタオルを敷いた段ボールに入れ、上からさらにタオルをかけ収めた。名付けた名前、謝罪の言葉、「天国で安らかに眠って下さい」と書いた手紙を遺体の上に置いた。連れて行かれた病院で医師に死産を告知。19日までの入院後、警察に死体遺棄で逮捕された。
技能実習制度は、「技術移転を通じた国際貢献」と日本政府は言っているが、安価な労働力の確保のための制度であることは明らか。職場移動の自由がなく、3年間は同じ職場で働く。恋愛、結婚、妊娠、出産の禁止。違反すると、「強制帰国」させられる。セクハラ、パワハラもある。残業時給は、最低賃金法違反の300円、家賃や諸経費を引かれ、手取りは3~4万円ということもある。ベトナムの年収は25万円ほどだが、その4倍の100万円を渡航前にベトナムのブローカーに払う。日本では監理団体(事業協同組合等)が受け入れ、実習実施機関(各企業・農家)から、一人の実習生につき、3~5万円の管理費を徴収する。まさに、現代の奴隷制と言われる。
指宿弁護士は、「人身売買と闘うヒーロ―賞」を受賞した世界の8人とZoom会議を行った。その際、「日本は人身売買の被害者を、犯罪者として処罰する国ですね」と言われ、つらかったと話し、技能実習制度は廃止すべきであると明言された。
おわりに
「我々は労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」(スイスの作家マックス・フリッシュ)。そして、「イスラム教徒を含む移民や難民も我々社会の一員だ。彼らは私たちなのです(They are us)」(ニュージーランドのアンダーソン首相)の2人の言葉を紹介。受け入れる外国人の人権保障の必要を強調された。
二、課題別報告
【1、国際基準からみた入管法改悪問題 鈴木雅子弁護士】
日本国籍を有しない人の出入国在留
日本の裁判所および政府の考え方は、40年以上前のマクリーン判決{最高裁大法廷判決
昭和53(1978)年10月8日}を今も維持している。その内容は、「国際慣習法上、国家が外国人を受け入れる義務を負うものではなく、当該国家が自由に決定することができる」から「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は…外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当」というもの。
マクリーン判決当時、日本は国際人権条約を一つも批准していなかった。その後日本が条約を批准し、これらの条約が外国人の出入国在留に関する処分にも適用されることは明らかになっている。それにも関わらず、裁判所はこれを頑なに認めず、入管の暴走を許している。国内の救済手段をつくしてもなお救済されない場合、個々の事件につき人権条約に違反しているか否かについて、条約ごとに定められた個人通報制度を利用して国際人権機関の判断を得る仕組みがある。しかし日本は個人通報制度を一つも受け入れていない。
出入国在留に関する処分について問題となる国際人権法上の原則として、①送還禁止原則、②非差別原則、③私生活の尊重、家族統合、④子どもの最善の利益原則、⑤恣意的収容の禁止などがある。しかし日本は、それらがないがしろにされている。
入管収容の問題
日本の裁判所と政府の考えは、恣意的拘禁原則といわれ、退去強制手続きの対象者は収容される原則である(原則収容主義、全件収容主義)。収容は、最後の手段あるべきである。
国際人権法から検討すると、自由権規約等で、恣意的拘禁は禁止されている。
鈴木弁護士からも、今後再提案されると予測される入管法「改正」(案)について、実務上現在より悪化の恐れあると、問題提起された。
【2、国際人権基準からみた朝鮮学校差別 朴金優綺さん】
在日本朝鮮人人権協会事務局の朴金さんは、朝鮮学校は日本敗戦直後、在日朝鮮人が奪われた言葉、文化、歴史、アイデンティティを取り戻すため「国語(朝鮮語)講習所」を作ったのが始まりと話し始めた。日本政府は70年以上にわたり一貫して朝鮮学校を弾圧しており、コロナ禍における問題に限ってみても、2020年3月にさいたま市がマスク配布対象から朝鮮学校幼稚園を除外。これは撤回された。同年5月に、文部科学省が「学生支援緊急給付金」制度の対象から朝鮮大学校の学生を除外。これは継続している。
国連では、人権高等弁務官事務所、国際人権条約、人権理事会の3つが有機的に作用し、各国の人権状況の是正に努めている。
上記の「学生支援緊急給付金」制度からの朝鮮大学校除外問題の件で2020年6月、国際人権NGO「反差別国際運動(IMDAR)」が、国連の①教育、②移住者、③マイノリティ、④人種差別の4名の特別報告者に申し立てた。2021年2月に、同4名の連名で共同書簡が日本政府に出された。その内容は、「社会権規約・人種差別撤廃条約を含む国際人権法上の日本の義務を遵守していない」「朝鮮大学校のマイノリティの学生を差別している。自らの国民的、民族的、文化的、言語的アイデンティティの促進を手助けする教育へのアクセスをさらに危うくする」等とある。日本政府の回答は、日本人、外国人を問わず対象機関に通えば受給資格があり、差別に当たらないとした。しかし、外国にルーツを持つ学生たちが通う高等教育機関の中で、外国大学日本校や日本語教育機関は対象とする一方、在日朝鮮人の学生が通う朝鮮大学校だけが、対象外とされていることが問題である。
この問題について、ある朝鮮大学校学生は「これは、金銭の問題ではなく、尊厳の問題です」と訴えた。
朴金さんは、国際人権基準に沿った政策の実現の実施を求め、歴史の不正義を見過ごさず、共に声を上げて欲しいと強く呼びかけた。
最後に、集会アピールが読み上げられ、参加者一同で承認した。参議院会館で行なった集会だが、丁度本会議と重なり議員は参加出来ず、秘書7名の参加があった。閉会間近に、「いま本会議が終わった」と福島みずほ議員が駆けつけ、連帯の挨拶を元気よくして頂いた。
(まとめ 高木澄子)