2023年7月13日木曜日

報告 とんでもない閣議決定から 10 年 国連人権勧告を実現させよう

 とんでもない閣議決定から 10 年 

国連人権勧告を実現させよう

集会の報告

  国会閉会を翌日に控えた 6 月 20 日、参議院議員会館 講堂で集会を行った。主催団体として森本孝子さんは、 「今国会は、殺人法と言われる入管難民法、差別促進の LGBTQ 法、軍拡法など、とんでもない法律が 次々と成立した最低の国会。日本の人権状況を、 良くしていきたい」と、開会の挨拶をした。


<特別報告>

I、入管法改悪と今後の闘い 

鳥井一平さん:移住連代表理事

   「入管法改悪反対!国会前シットイン」に取り組んで、と鳥井さんは話し始めた。「Open the Gate for All」の黄色の T シャツを着て、2 ケ月の間、何度 も議員会館前に座り込んだ。参加した人たちみんなが表現する場所・広場で、あらたな出会いが あった。その場から、国会議事堂の会議場にむけてあげたシュプレヒコールは、議員から確かに届 いたと言われた。

署名は、廃案に追い込んだ 2 年の前回より、2 倍以上の 22 万以上集まった。

日本の移民政策の変遷は、高度成長期の人手不足の時はオーバースティーを容認し、さらに日 系ビザの導入(かつて南米等に移住した日系人の 2 世、3 世の受け入れ)、そして技能実習生制 度、その拡大、特定技能制度など、日本経済の状況に応じて変遷させてきている。

新型コロナウィルスは、問題を露わにした。農業は人手不足で技能実習生に頼ってきたが、コロ ナの中でそのローテイションがうまく行かず、多くの農産物が腐ってしまったのだ。

入管難民法改正(案)は、その国会審議の過程で、一人の難民審査参与委員に審査が集中して いた問題や、常勤医師の不祥事が発覚し、「改正」の根拠が崩壊しているにも関わらず、成立して しまった。鳥井さんは、「出入国管理庁の権威を示したいための“改定”でしかない」と言う。

今後移住連は、11 年後の改悪法施行に対して、対案を提出した野党との連携、2在留特別許 可の実現、3仮放免者・難民支援者の生活等の支援、4難民・収容に関するネットワーク再構築 に取り組んでいく、と力強く話した。

II、子ども基本法と朝鮮学校差別

 (1)金載成(きむ・ちぇそん)さん:朝鮮大学校政治経済学部法律学科3年

「私は、日本で生まれ育った20歳の青年です。日本人の20歳の青年と同じ 様に、日本の地で、日本のテレビを見て、日本の歌を聞き、日本社会で育ちま した。ですから一見、日本人の青年との差はなく、日本人として見られることも 少なくありません。

しかし私は紛れもない朝鮮人です。自身のことを何ひとつ躊躇せず、朝鮮人だと胸を張って言 います(拍手が湧く)。私は、自身の祖国、民族に対する強い誇りを持ち。朝鮮人としてのアイデン ティティーを持っています。日本の青年と変わらない環境で育った私が、どうして祖国を知り、自身 の民族的出自を知り、朝鮮人としての自分を愛することが出来るのでしょうか。

それは、まさしく民族教育があったからです。民族教育が私自身のアイデンティティーを確立させ、自身の人格を確立させたのです。民族教育があったからこそ、差別され、権利が侵害される日本 という国で朝鮮人として生きることをやめず、胸を張って生きてこれました。

私にとって民族教育とは、単なる教育権ではなく、自身のアイデンティティーを確立し、自身の人 格を形成する権利なのです。

民族教育権は、国際人権条約、子どもの権利条約、国際法、国内法で保障されている当たり前 の権利であり、人類史的に価値のある普遍的な権利です。

私はもうこれ以上、日本政府が、法と世界各国からの勧告的意見を無視し、マイノリティーの人 格権を侵害することがないように、こども基本法、東京都こども基本条例がその役目を果たすこと を信じています。子どもたちのために闘い続けていきます。共に、頑張っていきましょう!」

(2)李俏娜(り・そな)さん:朝鮮大学校政治経済学部法律学科 4 年 

「子ども基本法が制定、施行されたことをとてもうれしく思っています。民族教育 とは、単なる教育権にとどまらず植民地支配によって奪われた民族性を回復する 過程、在日朝鮮人としての自らの人格を形成する過程であり、それによって私たち は在日朝鮮人、朝鮮民族の一員としての誇らしき生を全うすることができるのです。 しかし日本社会で生きるためには、あらゆる差別や偏見、悪意や暴力と闘わねばなりません。

“北朝鮮のスパイどもを叩き出せ”“ゴキブリ朝鮮人”...。拡声器をもった大人たちが幼い生徒の通 う学校の目の前まで襲ってくるのを目にするのです。

なぜこのような差別や偏見、人権侵害がゆるされるのか。それはまさに、国家によって差別が助 長され、国家政策により国民感情が煽られているからに他なりません。

私は高校の 3 年間を差別との闘い、高校無償化適用を求める闘いに費やしました。ビラを配り、 マイクを握り、道行く人に訴えかけ、日本政府を裁判に訴えましたが、不当判決でした。

悔しく、やるせなく、在日朝鮮人として生きることの過酷さを知ると同時に、大きな確信を得まし た。それは、民族教育を守り、在日朝鮮人として生きる道にこそ正義があるということです。

このような正義があるからこそ、多くの日本の人々が賛同、連帯し、差別を許さず、闘いぬく社会 へ変わりつつあると思います。そしてこの度の子ども基本法の制定は大きく、決定的意義を持つも のであると思います。国籍条項を問わず、すべての子どもの権利を尊び、保障する、子どもの権利 条約の精神を日本社会で具現化されることを願っています。私自身も、よりよい社会を共に築い ていくため、闘い続けて行こうと思います。」

III 放送法と表現の自由

池田恵理子さん: 元 NHK ディレクター、元 wam 館長

国際 NGO「国境なき記者団」は、2023 年の「放送の自由度ランキン グ」を発表。日本は 180 カ国中 68 位で、G7 の中では相変わらずの 最下位。政治的圧力やジェンダー不平等などで、「ジャーナリストは、政 府に説明責任を負わせる役割を十分に発揮していない」と批判されている。

1950 年に制定された放送法は、戦前から政府の管理下にあったラジオが戦争協力のプロパガ ンダを続けたことを反省してつくられた法律。第 4 条(番組準則)では番組編集に、「政治的に公 平であること」を求めている。安保法制が議論されていた 2014 年、首相補佐官が、「TBS のサン デーモーニンングは、コメンテーターが全員同じ主張をしており、4 条に反する」と主張し、見直しを 迫った。2015 年、高市早苗総務相が、同様の見解を示した。

2016 年、国連人権委員会「表現の自由」担当の特別報告者のデビット・ケイ氏が訪日調査をして、20頁にわたる報告を出し、「政府は、メディア規制から手を引くべきだ」等と勧告をした。2019 年にもケイ氏は、「日本政府は勧告をほとんど履行していない」と批判している。

安倍政権は、猛烈な勢いで「戦争ができる国づくり」を進めるかたわら、「慰安婦」問題を無きも のにしようとした。2000 年、東京で開催された日本軍「慰安婦」制度を裁く民衆法廷「女性国際 戦犯法廷」には、海外メディア 95 社 200 人の記者が訪れ、トップで報じたが、日本のメディアの 扱いは極めて小さかった。女性法廷を取り上げた NHK の「ETV2001」は、法廷批判がめだつ異 常なものだった。後に、当時の安倍官房副長官らが、放送直前に NHK 上層部を呼びつけて改竄 させたことが明らかになった。NHK は「あべチャンネル」と揶揄されるほど、「政府の広報機関」と 化した。女性法廷の主催者は、真相を求め提訴。東京高裁では政治家の意を忖度して編集したと 認定し、NHK に 200 万円の損害賠償支払いを命じたが、最高裁では原告の請求は棄却された。

政府への忖度や自主規制は今も続いている。「慰安婦」問題ひとつを見ても、今や「慰安婦」の シンボルとなっている「平和の少女像」が、各国で建立される度に日本政府は圧力をかけ、つぶし ていく。それを日本のメディアは報道もしない。ジャーナリズムは政権を監視し批判する役割を担 っているのだが、日本のメディアはその基本を忘れているのではなかろうか。

「どんな小さな声でも伝えていくことを、連帯してやっていきたい」と、池田さんは報告を終えた。

<基調報告>

国連人権は高いハードルではない! ~すべての国が達成すべき共通の基準~ 

前田朗さん:朝鮮大学非常勤講師

人種差別条約を日本政府は 1995 年に批准。これまで 2001 年、2010 年、2014 年そして 2022 年の 4 回審査を受け、その都 度多くの「勧告」を受けてきた。毎回 NGO の一員として参加してきた前田さんの報告 は、多くの問題提起を含む学ぶことの多い報告であった。

★日本政府のダブル・スタンダード

前田さんは、「勧告」には、拘束力があるのか、ないのかという問題設定には あまり意味がない、と話し始めた。国際人権条約を批准した国々は、それを守るために、その担い 手として、協力していきましょう!と約束を重ねてきた。

日本政府は、国連で立候補し、理事国に相応しいと何度もアピールして、47 ケ国から成る国連 人権理事会のメンバーになった。そうなら、守るのが当たり前ではないか!

日本政府のダブルスタンダートを示す例として、「強制失踪委員会」の例を話したい。「強制失踪 条約」は、2006 年に採択された。国の機関等が人の自由をはく奪し、所在等を隠蔽し、法の外に 置くことを強制失踪と定義し、犯罪化、処罰を確保するための枠組みを定めている。日本政府は、 「拉致問題」に力を入れるとアピールをし、2018 年に報告書を出し、委員会に臨んだ。

ところが、強制失踪委員会は拉致問題を取り上げず、質問したのは日本軍「慰安婦」問題であっ た。日本政府代表団はパニック状態だったという。委員会からは日本軍「慰安婦」問題の解決を 求める勧告が出された。日本政府は改めて「条約以前の問題を委員会で取り上げるべきではない」 と猛烈な抗議の手紙を委員会に送った。拉致問題も「慰安婦」問題も、条約以前ことで同様であ り、2つともきちんと対応すべきである。

★「人として認められる権利」

なぜ日本は、人権後進国か?

日本国憲法の前文は、「日本国民」はで始まり、第 3 章で「国民の権利」が列記されている。 世界人権宣言、国際人権規約、人権憲章などには「人として認められる権利」が、基本的権利として謳われている。しかし、日本国憲法には、「差別されない」とはあるが、「人として認められる権 利」に対応する条文はない。「人間の尊厳」も、同様である。

このような国で、外国人の人権は守られるのだろうか? 多くのヘイト・スピーチがあるが、「人 間の尊厳」としては語られず、「表現の自由」として語られる。

前田さんは、問題は日本政府に国際人権法を遵守する姿勢が全くないことであるとし、委員会 が総論として指摘したことに、自身の見解を加えまとめとした。

1 憲法と法律が国際自由権規約に合致していない。裁判官、検察官、弁護士、法執行官等に国際人権法の研修を行う必要がある。日本の裁判官は、国際人権法に無知だから。

2 独立した国内人権機関の設置が必要である。多くの諸国には、専門の国内人権委員会があるが、日本にはない。

3 憲法 14 条は一般的な差別禁止を定めるが、差別禁止法がなく、委員会は、包括的な差別禁止法を求めている。これまで数々の国際人権機関が何度も同じ勧告をしてきたが、必要がないから作らないと拒否している。恥ずべき異様な差別大国である。 人権を尊重するのは、政治の意思の問題で、日本政府にはそれがないと明言し、報告を終えた。

残りの時間の会場発言で、田中宏さんは次のように話した。「3 点ほど問題提起したい。1外国 人登録令が、出入国管理法となった。人間に関する法律に“管理”とあるのは、おかしい。野党提 案の法にもある。国会でもそれを追求する人はいない。2住居の移転は 14 日以内に報告する義 務がある。しないと、日本人には5万円の行政罰、外国人には 20 万円の刑罰という差別がある。 3外国人の永住者等の「在留カード」は 7 年が有効期間、日本人のマイナンバーカードの有効期 間は 10 年という差別がある。これらの差別も是正していくべき」と。

最後に決議文が読み上げら れ、90 余名の参加者一同の 拍手で賛同し、集会を終えた。

<ご挨拶頂いた国会議員> 

 高良鉄美議員(沖縄の風・参)、山添拓議員 (共産・参)、水岡俊一議員(立憲・参)

 ※川田龍平議員(立憲・参)はチラシを置き資料を受取りご退室。 

※議員秘書参加:山添議員(上記)の折原さん、田島麻衣子議員(立憲・参)の矢下さん、 大椿ゆうこ議員(社民・参)の野崎さん、吉良議員(共産・参)の秘書の方、高良議員(上記)の 神田さん、水岡議員(上記)の藤野さん、阿部知子(立憲・衆)の小林さん、水野もと子議員 (立憲・参)の西塔さん。

( まとめ:高木澄子 写真:石川美紀子 )


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