【開催報告】
包括的反差別法をつくろう!
12・10世界人権デー 院内集会の報告
Ⅰ、基調講演 浅倉むつ子さん(早稲田大学名誉教授)
講演は、「労働法、ジェンダー法が専門で、今は、女性差別撤廃条約実現共同アクションの共同代表などをしています」という、浅倉さんの自己紹介から、始まりました。お話は、分かり易く、今こそ日本社会には、包括的反差別法が必要だという認識が広がりました。
・「包括的反差別法の意義」
雇用差別の法規制が、包括的でないことの問題。
日本には雇用差別を規制する法制度がいくつかあるし、雇用以外の分野の差別規制法も存在している。しかしそれらが包括的な法規制ではないために、いくつかの重大な問題がおきている。
・性差別をめぐって
1985年の均等法は勤労婦人福祉法の改正として成立し、努力義務の規定だった。1997年、2006年の改正を経たが、いくつも問題を残している。
例えば、今年5月のAGCグリーンテック事件で、東京地裁は、はじめて間接性差別の成立を認めた。社宅制度(福利厚生措置)を総合職(多くが男性)のみに認めて、一般職(多くが女性)に認めないことは間接的な女性差別、とされた。これは間接差別を規制する均等法が福利厚生を対象とする法律だったからだ。しかしもしこれが、賃金である「住宅手当」が争点だったら、間接差別を禁止していない労基法4条の対象事項となるため、間接差別だという判決がでたかどうか、疑問である。
また、セクシュアル・ハラスメント防止に関する均等法の規定は、同法2章1節(性差別の禁止)ではなく、2章2節(事業主の講ずべき措置)におかれている。では、セクハラは「性差別」ではないのだろうか。また、セクハラとは「性的な言動」とされているが、性的(セクシャル)な言動ではない「ジェンダー・ハラスメント」(「女性はお茶くみが向いている」というような嫌がらせ)は、その対象とされていない。おかしくないか。
・差別の是正をめぐる条文の差異
差別の是正については、均等法も障害者雇用促進法も、厚生労働大臣が事業主に「助言、指導、勧告」をすることになっている。しかし均等法には、勧告に従わない事業主の「公表規定」があるが、障害者雇用促進法にはこの条文がない。なぜだろうか。
・ハラスメント法制について
セクシュアル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、ケア(育児・介護等)ハラスメント、パワー・ハラスメントという4種類のハラスメントの防止が、別々の法律で事業主の措置義務とされている。しかしそれぞれの条文にハラスメントの明確な定義はなく、措置義務規定からその内容を把握するしかない。
以上のように、日本の法制上の大きな問題は、各法律がデコボコで統一性がなく、差別の救済がとても困難だというところにある。すべての人たちが利用しやすいようにすべきである。
2)包括的反差別法の参考例
① イギリスの2010年平等法
イギリスでは、9分野に分かれていた差別禁止の個別法を2010年平等法として統合した。これにより、複雑化した適用状況が統一され、複数あった人権機関は「平等人権委員会」(EHRC)に統合された。「平等のヒエラルキー」を解消するためにも、統合化が必要だったといわれる。
同法の適用対象分野は、サービスの提供、不動産、労働、教育、団体が関わる差別。
禁止される差別事由は、年齢、障害、性別変更、婚姻・民事パートナーシップ、妊娠・出産、人種、宗教・信条、性別、性的指向。
禁止される差別行為としては、直接差別、間接差別、障害に起因する差別と合理的調整義務の不履行、ハラスメント、報復である。
「直接差別」には、「関係者差別」と「認識上の差別(みなし差別)」も含まれる。たとえば、障害者の家族であることを理由とする差別は、障害の「関係者差別」として禁止される。「認識上の差別」とは、その特性をもつ者と誤って認識された場合の差別であり、たとえば外国人だと間違われて差別された場合でも、それは直接差別に該当する。
「間接差別」とは、ある要件や基準自体は中立的でも、それを適用したときに一方の性別に著しい不利益をもたらすような場合をさす。たとえば「身長175cm以上の人」という募集要件は性中立的だが、男性が多く採用される結果となるので、仕事上必要な要件だという合理的な理由が示されないかぎりは間接的性差別とみなされる、という例である。
複合差別は、イギリスでは、二つの事由が重なる「結合差別」として禁止されている。他の国では、交差差別とも言われる。
② 国連の「包括的差別禁止法実践ガイドブック」
2022年に、国連人権高等弁務官事務所が公表したもので、IMDARが翻訳している。
イギリスの平等法を作成したグループもこのガイドブック作成に関与し、以下のような特色があるといわれている。「生活のすべての分野において、国際人権法にそったあらゆる差別が禁止される」、「差別には、直接差別・間接差別、ハラスメント、合理的配慮の不提供、報復、扇動、差別の指示などを含む」、「ポジティブアクション(暫定的措置)を明文で規定する」、「国と民間の双方に対して、平等取り扱い義務を課す」、「被害の賠償、原状回復を含む効果的な救済を定める」、「立証責任を転換する」、「独立した平等機関を作り、差別を受けた人を支援し、調査し、国に助言する」、「国は行動計画を作る」、などである。
・ILOの190号条約
ILOは、2019年、設立100周年を記念する総会で、「労働の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する190号条約」を策定した。「対象となる行為は、単発的か反復的かを問わず、身体的、精神的、性的、経済的な害悪を与えることを目的、または結果を招く可能性のある行為や脅威」。「人的対象は、労働者、労働世界のすべての人(インターン、ボランティア、求職者、応募者、使用者個人)」、「包摂的・統合的でジェンダーに対応したアプローチ」を採用している。また、「適切で効果的な救済。安全で構成で効果的な通報と紛争解決メカニズム」を作るとする。
以上のような3つの参考例と比べると、日本の場合は、明確な差別禁止規定や救済規定がなく、改めて、包括的反差別法の必要性が痛感される。
3)平等とは、何を実現するのか。
イギリスの労働法学者、サンドラ・フレッドマンは、平等という概念の中でも「実質的平等」という考え方を提起するが、それは以下のような意味をもつ、と述べている。
・不利益の救済のため、資源や利益の再配分を求める。
・スティグマ、ステレオタイプ、偏見、暴力を排除して、承認を実現する。
・これまでの社会構造を、差異に配慮したものへと変革する。
・被差別者を社会に包摂して、政治的発言を強める。
このことは、障害者権利委員会による「一般的意見第6号」が述べる、同条約の「平等概念」とほぼ同じものであって、障害者権利条約は「インクルーシブな平等」と述べている。
4)包括的反差別法の意義
最後に、包括的反差別法の意義をまとめておきたい。もちろん個別の反差別法を作ることは、とても重要なことだが、そのうえで、なぜそれらを「包括的なもの」にする必要があるかということである。
それは第一に、差別の解消、平等の実現をすべての人々にとって共通の課題として議論できるようにするから。第二に、権利の実現を求める人が法の谷間に落ち込まないよう、法にアクセスしやすくするから。第三に、平等のヒエラルキーをなくして、被差別者相互の対立を解消するから。そして第四に、複合的差別を救済しやすくするから、である。
以上のような浅倉さんのお話は、とても説得力があるものだった。
会場には、議員の方たちの参加も沢山あり、この時間に会場にいらした議員8名に前に並んで頂き、一人一人から力強い連帯の挨拶を頂いた。また時間の関係で、集会開会直後に挨拶をして退席した議員もいました。
短い質疑の時間に、在日の方から質問があった。「日本の外国人差別は、ひどい。憲法のいう国民を克服でき、在日差別を解消できるのか?」 国会議員の福島みずほさんからは、「差別禁止の対象と救済をしっかり法に盛り込めば、出来るはず」と回答した。
憲法前文には「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ…」と書かれている。国籍が焦点ではなく、地域に生きる「人民」ととらえた反差別法をつくっていきたい。
Ⅱ、特別報告
1、「朝鮮学校差別と歴史認識」 朴金優綺さん(在日本朝鮮人人権協会)
朴金さんは欠席となり、司会者がレジュメを読み上げた。
2010年以降文部科学省は、朝鮮学校を「高校無償化」制度から排除。それに伴い、自治体もそれまでの補助金を停止。2019年から始まった幼保無償化制度から、外国人学校の幼稚園を排除するという、公権力による差別が行われている。
これに対して、各条約人権機関・各国からは差別の是正を求める勧告が出されている。
また「群馬の森」の朝鮮人強制労働者の追悼碑の撤去。「佐渡の金山」に動員された朝鮮人名簿の非公開。1923年に起きた関東大震災における朝鮮人虐殺の追悼集会に、2017年から小池知事は追悼文を不送付。100年目の昨年は虐殺に関する事実の公文書があるにもかかわらず、「記録が見当たらない」を繰り返した。これらは日本が朝鮮を植民地支配していた時に起きた「植民地犯罪」で、公権力による歴史否定への加担が行われている。国際人権基準に照らすと、植民地犯罪に対する調査や真相究明、公文書へのアクセス、植民地犯罪の影響を扱う記念措置の採用などが求められており、日本の公権力による歴史否定への加担は、これと逆行する動きとして許されないものである。
世界に目を向けてみると、旧植民地支配国がその責任に向き合うという流れが世界的なものとなっている。ベルギーやフランスでは、植民地時代の歴史を検証する委員会が設置されている。日本も、差別を是正し、歴史否定の加担を止め、植民地支配責任に、向き合うことが求められる。
2、「入管問題に取り組む立場から」 是恒香琳さん(Save Immigrants Osaka/#FREEUSHIKU)
入管の収容施設内外で支援活動を行う2つの市民有志グループによる共同の報告。
2021年スリランカ人女性ウィシュマさんの名古屋入管での死亡、22年イタリア人男性ルカさんの東京入管での死亡。同じ人間としての配慮や医療が行われず起きた事件だ。
2023年、出入国管理及び難民認定法が「改正」された。・送還停止効の廃止、・監理措置制度の創設、・退去強制拒否罪の創設、・一年を超える実刑判決を受けた者に原則として在留特別許可を発布しないなどの問題点に、批判が続出した。
2024年、出入国管理及び難民認定法がさらに「改正」。技能実習制度に代わる育成就労制度を創設し、本人の意向で転籍が可能と謳うが、実際は非常に難しい要件。来日時の借金という足枷への具体的な対策もない。永住許可取消しを容易にする条文が加わった。
法案審議中、国は日本で生まれ育った未成年の非正規滞在者と家族に在留資格を与えると約束したが、現状は一部に認められたにすぎない。母子家庭なのに小学生の子どもだけ「留学」の在留資格が認められた事例。父親の在留資格が認められず母子家庭状態の事例。ひとり親家庭への公的支援から排除されて、子どもの権利すら守られない。
管理措置制度も、一部の入管では申請をしても全く許可されない。ある入管では、監理人を見つけられず、ハンガーストライキで命がけの抵抗をし、やっと仮放免が認められた。
先の見えない収容・仮放免の生活に絶望しながら生きている人たち、家族、支援する市民有志、みなに限界が訪れつつある。
在日クルド人に対するヘイトスピーチが深刻化。社会全体の意識改革が必要。人権無視のガイドラインや入管法の本当の「改正」に繋がることを願って、「包括的反差別法」を求めたい。
3、「沖縄基地と性暴力」 青木初子さん(沖縄反戦地主会関東ブロック)
昨年12月におきた米兵による少女誘拐暴行事件を、今年6月に新聞報道されるまで日米両政府は、沖縄県や県民に隠蔽した。その理由を「プライバシーの保護」というが、保護を図りながら事件を県民に知らせ、注意喚起をすれば、その後の2件の事件を予防できたはずだ。また県民が知らされなかった6ケ月の間に、県議会選挙があり、結果が代わっていたかもしれない。6.23慰霊の日があり、岸田・バイデン会議も行われ、エマニュエル駐日大使は、米軍機で与那国島へ行き、「沖縄は負担でなく、責任だ」と台湾有事をあおることまでした。このような沖縄差別の政治的隠蔽を、絶対許すことは出来ない。
10月に、女性たちは国連に代表団を送り、米軍基地由来の性暴力や人権侵害の歴史と実状を訴えた。女性差別撤員会は、日本政府に対して「被害者の保護と救済、補償制度を確立し『不処罰の文最後化の終焉』に向けて具体的取組の実行を」もとめ、勧告をした。委員会が在沖米軍人らに言及するのは初めてで、米軍による性暴力を「ジェンダーにもとづく暴力」と明言し、地位協定の改定や、人権機関の設立の必要性も盛り込んだ。女性たちの闘いが国連を動かし、勧告を勝ち取った。
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会場は当初予約していた広い会場が、衆議院解散、総選挙でご破算になり、やや狭い会場に変更になり、Youtubeでの同時配信を行った。会場は満員で熱気にあふれ、入りきれない人もいた。遅れての参加で挨拶が出来なかった議員、そして秘書の参加も多かった。
集会の最後に参加者一同でアピール文を採択し、「改めて包括的反差別法をつくろう!」の思いを新たにして、集会を終えた。会場参加者、視聴者ふくめ200名以上の参加者でした。