2015年9月9日水曜日

第13回学習会の報告

第13回学習会の報告

 第13回学習会は、弁護士の師岡康子さんをお迎えし、29名の参加者を集めて開催された。その概要を報告する。

・人種差別撤廃のための施策は日本政府の義務

 人種差別撤廃条約2条1項dにおいて、「いかなる差別も禁止し終了させる」と規定されているとおり、日本も同条約に加盟していることから、政府には人種差別全体への取り組みが求められている。2013年に示された国連人種差別撤廃委員会の「一般的勧告35」の3項でも、ヘイト・スピーチと闘うためには、「条約のあらゆる規範と手続きを動員すること」が求められている。

 人種差別全体への取組みについての、国際人権基準で求められている最低限の基準として、8つの要素を考えている。

1 差別に関する実態調査
2 国の政策・制度の再検討
3 平等な人権を保障する制度
4 人種差別禁止法
5 ヘイトスピーチ・ヘイトクライムの処罰
6 人種差別撤廃教育
7 国内人権機関
8 個人通報制度

 日本はこの8つのうち、ひとつの施策も実現されていない。今回の法案はこの基準を満たすための第一歩である。

・「規制法」ではなく「理念法(基本法)」

 基本法とは、参議院法制局によれば、国の基本方針・原則・準則などを明示したもので、一般の法律よりも上位にある。また、今回の法案には、強制手段となる罰則がないため、「規制法」ではない。また、人種等による差別を禁止する原則は明示しているものの、具体的にどう禁止するかについて定めていないため、「禁止法」としても不十分である。

 表現の自由との兼ね合いについても、今回法案は表現を規制するものではないため、原則として問題は生じていないと考えられる。

・人種差別撤廃施策推進法案の内容

 総則として、憲法と人種差別撤廃条約を踏まえ(1条)、国際的協調を図ること(5条)を規定。また、人種等による差別の定義として、「人種」「皮膚の色」「世系」「民族的・種族的出身」を挙げている(2条)。何人も人種等による差別を、特定の人に対してか、不特定の人に対してかを問わず、してはならないと規定(3条)。但し、特定の人に対する行為として「侮辱・嫌がらせ」が挙げられている一方、不特定の人に対しては、「不安もしくは迷惑を覚えさせる」行為とされており、差異がある。この点は修正するか、もしくはガイドラインで補われるべきだと考えている。

 また、国及び地方公共団体の責務を定め(6条)、人種差別撤廃に向けた基本方針の策定(7条)や財政上の措置(8条)、政策審議会の設置(20条)、施策の状況に関する国会への年次報告が義務づけられている(9条)。

 さらに、実態調査を義務づけており(18条)、調査を踏まえて、基本方針を策定することとされている。

・今回の法案の意義

 これまで、日本政府が何も取り組みをしてこなかった状況に対して、まず動き出す一歩になると考えられる。何より、人種等による差別が違法であると宣言することは、大変意義の大きいことと考えている。今回の法案が成立したところで、その場で人種差別をやめさせることはできないが、その大前提となる。