2023年12月28日木曜日

【開催報告】国連・人権勧告の実現を! 〜すべての人に尊厳と人権を〜 第11回 包括的差別禁止法をつくろう〜海外の動向も踏まえて〜

 【開催報告】

国連・人権勧告の実現を! 〜すべての人に尊厳と人権を〜

第11回 包括的差別禁止法をつくろう〜海外の動向も踏まえて〜


12月10日の「世界人権デー」前後に毎年行う、「国連人権勧告の実現を!実行委員会」主催の集会は、今回が11回目となった。集会タイトルは、まさに国連からずっと勧告を受けている「包括的差別禁止法をつろう!」である。

国会開会中の12月7日、衆議院第1議員会館で行われ、20名の国会議員からアピールが届き、当日参加の7名の議員からは力強い連帯の挨拶があった。主催団体、参加者、国会議員、皆が「包括的差別禁止法をつくろう!」との思い・決意を新たにした集会だった。


<基調講演>

「包括的差別禁止法を作ろう!-海外の動向もふまえて-」

 講演は、前田朗さん(朝鮮大学校法律家講師)

初めて「差別されない権利」が認められた判決

最大のポイントは「差別されない権利」です、と話は始まった。2013年に「ヘイト・スピーチ」が流行語に。2016年に「ヘイト・スピーチ解消法」が成立した。しかし、差別を禁止していない。2019年3月成立の川崎市「ヘイト禁止条例」には処罰が導入されたが、まず勧告、次に命令、3番目に命令に反し差別を繰り返すと50万円の刑事罰となる。

世界193ケ国中、150ケ国に「ヘイト・スピーチ禁止法」がある。当然、最初から犯罪となる。

「差別されない権利」について、裁判判例からその経過をみる。2021年9月27日の「全国部落調査復刻版差止訴訟第一審判決」では、「原告らの権利の内実は不明確であって…権利が侵害されているのか、判然としない。」と権利性を認めなかった。2023年6月28日の東京高裁の控訴審判決で「憲法13条の個人の尊重、14条の法の下の平等から、人は誰も不当な差別を受けてはならない」と、日本の裁判史上初めて「差別をされない権利」が、認められた。それは憲法学者というより、248名の原告と弁護団の努力の積み重ねによるものであった。


条約締約国の義務と日本政府の姿勢

国連は「人種差別撤廃条約」を1965年に採択。日本は30年後の1995年に批准した。

条約締約国には、差別撤廃を実現するために、①尊重する義務、②保護する義務、③実現する義務がある。①は、国家が差別的な政策をしない、差別をもたらす法規制などは、修正または無効にする義務。②は、差別から保護するため、特別法や政策をつくる義務。③は具体的な措置を講じ、それには、歴史的に不利益を被ってきた人々への積極的是正措置の義務も含まれる。

NGOでは、「人種差別撤廃NGOネットワーク」の連絡組織をつくり、共同でレポートを作成し国連に提出し、日本政府報告審査時には、国連に赴きロビー活動を行ってきた。

国連の人種差別委員会は、日本審査後の2001年、2010年、2014年、2018年の4回、日本政府に対し、「差別禁止法の制定と国内人権機関の設置」を勧告した。しかし日本政府は、いずれも拒否。2016年に「ヘイト・スピーチ解消法」を作ったせいか、2018年には、「我が国にも人種差別はあるが、そのための法律が必要なほどではない」と言った。

「ヘイト・スピーチ解消法」には、処罰や救済がない。人種差別撤廃条約第7条には、「締約国は、人種差別につながる偏見と戦い…」とある。中立では駄目。戦って、教育、文化、情報などの分野で効果的な措置をしなければいけない。また、条約第6条には「自国の裁判所及び他の国家機関を通じて…」と、国際機関も射程に入れている。しかし日本政府は、国際救済機関への「個人通報制度」を、一つも受け入れていない。

差別禁止法、国内人権機関の設置、個人通報制度の要件を備えた包括的差別禁止法を、ぜひつくって行きたい。


今年は関東大震災の大虐殺から100年。「ジェノサイド条約」は、国連で1948年に採択されたが、日本は批准をしていない。ジェノサイドは重大犯罪で、実行行為者のみならず、上官の責任も問われる。1923年の大虐殺のみでなく、植民地支配からの文化ジェノサイドも含め140年続いている、との補足もあった。

 

<特別報告>

1、「関東大震災100年の年に」   田中宏さん(外国人・人権法連絡会共同代表)


 100年前の東京帝国大学新聞(1923.11.29)には、朝鮮人留学生尹泰東の「…朝鮮人を殺すことを以て日本国家に対する大いなる功績と思って居たように見える。…」とある。

当時すでに在職し、戦後初代総長になる南原繁は、「外地異種族の離れ去った純粋日本に立ち返った今、天皇制も失うなら日本民族の歴史的個性と精神の独立は消滅する…」と演述(1945.4.29.)。2代目総長の矢内原忠雄は、「日本はもう植民地はなくなったから、植民政策論を国際経済論に変えた」との認識を示した(1958.2)。

2008年の中央防災会議の報告書には、「武器をもった多数者が、非武装の少数者に暴行を加えた挙句殺害するという、虐殺という表現が妥当する例が多かった。…過去の反省と民族差別の解消の努力が必要」とある。

 2021年、バイデン米大統領は、100年前の黒人虐殺事件の地を訪れ「暗闇は多くのものを隠すことは出来るが、何も消すことは出来ない」と発言。

2023年大虐殺から100年の今年、岸田首相、小池都知事からはこのような発言を聞くことはなかった。民間では、「関東大震災被害者虐殺者の追悼と責任者追及」等の大きな集会が各地で開催された。国会での野党議員からの質問に対し、政府統一見解として、「政府内に事実関係を把握できる記録が見当たらない…」というのみ。政府が何もしないということは、とても大きな問題であると話しをまとめた。


2、「入管難民法の問題とこれから」   織田朝日さん(SYI=収容者友人有志一同)

 東京オリンピック開催が決定した2013年から、在留資格のない外国人を追い出す政策が強化された。難民申請者であれ、どんな事情があろうと、容赦なく強制収容され、時には送還もされた。2018年、法務省入管局が各地方入管に、「送還の見込みが立たなくても収容に耐えがたい傷病者でない限り、送還が可能となるまで収容を継続し、送還に努める」と通告が出され、拘束の長期化、職員による暴力なども増えた。2019年、長崎県大村入管で3年7ケ月収容の末、ナイジェリア男性が餓死という事件が起きた。

2021年には世論の反発で廃案になった「改正」入管法が、今年6月には成立した。その内容は、これまで何度も出来た難民申請が3度までになり、送還を拒否した場合は、刑事罰に課せられる。犯歴がつけば、難民と認められることはほぼ不可能となる。管理人制度も導入された。入管が決めた管理人(例えば支援者や弁護士)が、逐一仮放免者の動向を報告し、怠れば罰則がある。これは当事者と支援者の間に分断をつくる。

交流しているクルドの子どもたちは、皆、日本に残って頑張りたいと言う。8月に入管は、日本で生まれ、学校に通う18才未満の子どもたち140人と親に、特別在留資格を与えると言ったが、まだビザは出ない。さらに、幼少期に来日した子どもや親が、対象にならないのは大きな問題だ。府立施行の6月まで、あと半年。子どもたちがこれ以上苦しめられないよう、私たち日本の大人が頑張らなければいけない。協力をお願いします、と呼びかけ話を終えた。


3、「朝鮮学校差別の今」   朴金優綺さん(在日朝鮮人人権協会事務局)

 朴金さんは最初に、毎年この問題で同じ報告をしなければならないのが大きな問題、と話し始めた。正面の画面に、分かり易く図式化した「在日朝鮮人に対するヘイトのピラミッド」を映し、底辺の広がりから三角の頂上まで、5段階の差別のピラミッド構造を説明していった。

底辺の①は、「先入観に基づく態度」。ネット上のデマを信じるなど、無意識の差別や偏見。②は、「偏見に基づく行為」。「チョン」などの差別用語を言う、からかい・いじめなど。③は、「差別行為」。高校無償化制度、幼保無償化制度、自治体の補助金からの朝鮮学校除外、ヘイト・スピーチなど。④は、「暴力行為」。朝鮮学校生徒へのチマチョゴリ切り裂き事件。暴行事件などのヘイト・クライム。⑤が、ピラミッドの頂上の「ジェノサイド」。軍隊、警察、民衆による関東大震災時の朝鮮人虐殺。

 日本政府は、③の差別行為を自ら行っており、差別禁止法が出来れば、差別を行っている日本政府が、まず問われる。そのため、政府は差別禁止法を作らないのではないか、とするどく日本政府の態度を指摘した。

今年1月に行われた国連人権理事会のUPR(普遍的定期的審査)第4回日本審査にて、朝鮮民主主義人民共和国が日本政府に対して、朝鮮学校に対して「授業料無償化措置」「就学支援金制度」およびその他の補助金支給を差別なく適用し、平等な扱いを確保するための措置を講じることを勧告した。それなのに、日本政府はこの勧告を「受け入れない」と回答した。包括的差別禁止法の制定についても3カ国が勧告したが「留意する」と回答、現行法で対応できるとの見解を示した。

 日本政府は国際社会に対しては人権を尊重すると表明しながら、国内では「高校無償化」除外問題などの人権侵害の主体となっており、ダブルスタンダードである。これを批判し、早急に勧告を履行するよう求める声を上げていく必要がある。

  朝鮮学校は、在日朝鮮人に対する先入観や偏見を正す機能を持つ、ヘイトのピラミッドを打ち崩す場としても存在する。朝鮮学校に対する差別・暴力を止め、あらゆる差別や暴力のない社会をつくっていきましょう、と力強く呼びかけた。


4、「緊急アピール」   多原良子さん(先住民族アイヌの声実現!委員会 代表)

 多原さんの緊急アピールは、ビデオメッセージで行われた。学校では虐められ、職場では差別され、結婚してもちゃんと名前を呼ばれなかったと、話し始めた。アイヌ女性だけで集まって話し合う場を持った時、 民族差別、家父長制、マイノリティーの複合差別の話がたくさん出た。アイヌ協会に入って活動した。 2019年に、「アイヌ新法成立」。

2003年、2009年、2019年に国連の会議に参加し、先住民族の権利を 訴えた。

自民党の杉田水脈衆議院議員は、ブログなどでアイヌ事業関係者を「公金チューチュー」」などと揶揄。多原さんは、札幌法務局に多くの証拠と共に、人権救済を申立てた。札幌法務局は、「人権侵犯」と認定。また内閣官房アイヌ総合政策室は、「助成事業の不正経理はない」と言った。それにもかかわらず、差別発言を繰り返している。来年2月には、院内集会を行うと告知した。 


 会場参加の、谷口滋さん(同委員会事務局)から補足があった。

人権侵犯を訴えるのは、本当に大変。杉田議員は守られているので、多原さんへのヘイトを繰り返し、増幅している。今後ともしっかり取り組んで行きたい。「アイヌ施策見直しに関する請願」の署名活動を行っているので、協力をお願いしたいと話した。


 予定時間をオーバーし、最後に司会の池田さんが決議文を読み上げ、90名ほどの参加者一同の拍手で賛同し、集会を終えた。

<会場参加でご挨拶頂いた国会議員 7名> 

左から高良鉄美さん(参・沖縄の風)、古賀千景さん(参・立憲)、鎌田さゆりさん(衆・立憲)、大椿ゆうこさん(参・社民)、福島みずほさん(参・社民)、打越さく良さん(参・立憲)、山添拓さん(参・共産) 


<当日配布冊子にメッセージをお寄せ頂いた国会議員20名>

阿部とも子さん(衆・立憲)、逢 坂 誠 二さん(衆・立憲)、岡本あき子さん(衆・立憲)、      小川淳也さん(衆・立憲)、鎌田 さゆりさん(衆・立憲)、菅直人さん(衆・立憲)、         くしぶち万理さん(衆・れいわ新選)、近藤昭一さん(衆・立憲)、もとむら 伸子さん(衆・共産)、柚木道義さん(衆・立憲)、石垣のりこさん(参・立憲)、石川大我さん(参・立憲)、大椿ゆうこさん(衆・立憲)、紙智子さん(参・共産)、吉良よし子さん(参・共産)、田島麻衣子さん(参・立憲)、福島みずほさん(参・社民)、舩後靖彦さん(参・れいわ新選)、水岡俊一さん(参・立憲)、山添拓さん(参・共産)


( まとめ:高木澄子  写真:石川美紀子)