「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会主催 第40回学習会
包括的反差別法をつくろう!~差別禁止法とヘイトクライム~
2025年6月10日 午後6時~7時半 衆議院第2議員会館第8会議室
講師の寺中誠さんは、正面に映されたパワポの資料に添い、これまでに蓄積された研究や実践からの思い・知識・情報が溢れるように、 今日は、まず国際人権法は何を求めているのか、次に国内人権機関の可能性について話したい、と講演は始まった。
<国際的な人権に、日本はどう応えられるのか>
人権条約として初めての「人種差別撤廃条約」は、国連で1965年に採択、1969年に発効し、 日本は1993年に加入した。しかし日本政府は、条約4条のa号とb号の2点について、留保 (守るつもりはない)している。
a号は、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、いわゆる「ヘイトクライム・ヘイトスピーチの禁止」で、留保の理由を日本政府は「表現の自由」との衝突をあげる。
b号は「人種差別の扇動」で、「扇動と顕示行為の禁止」は、「実行行為に至らない行為への処罰の躊躇」を留保の理由に掲げる。
国連からは、留保の撤回を何度も勧告されている。
日本の刑法には名誉棄損罪(230条)、侮辱罪(231条)がある。2023年度で、その検挙件数は940件あるが、最終的な処罰には至っていない。民法上の不法行為の裁判、判決はあるが、刑法上では処罰が行なわれていないのが現状である。
<国連及び諸外国の動き>
一方で、国連人権委員会では、「表現の自由」の観点から、「名誉棄損罪」は、各国の刑罰法規から削除し、民事上の処分に限定すべきだと指摘されてきた。なぜなら、政治的、社会的な有力者こそが「名誉」を有しており、その強者の名誉を棄損したマイノリティを処罰する契機として利用される「抑圧の技法」であり、名誉棄損罪は、しばしばSLAPP訴訟に利用されてきたからである。
EUや北欧諸国では、反SLAPP法が次々成立している。
アメリカには、「ブランデーバーグ・テスト」という「急迫かつ現在の危険の法理」が用いられている。「現在の危険に触れない限り、表現の自由を最大限認める」というものであり、ヘイト表現の 規制は、合憲とされにくい。
名誉棄損罪や侮辱罪は、外部的名誉の侵害が問題とされ、内部的名誉(尊厳)や名誉感情を被害法益と規定することには困難がある。
<ヘイト犯罪の立法形式・刑事的規制>
現在は名誉棄損の規制を避け、ヘイトクライム自体を犯罪化する手法が主流である。ヘイトの動機による犯罪の実行化を重罰化するのは、イギリス、アメリカ、欧州などで、主観的犯罪要素として、ヘイト動機を明示的に位置づける立法形式である。
ヘイトスピーチは、ヘイト動機+顕示行為を伴うため、顕示行為が表現の自由と衝突する。
ヘイトクライムは、動機に基づく行為そのものを犯罪とし、ヘイト動機を処罰対象とするが、内心の処罰ではなく、行為主義を必要とする。
ヘイト行為やヘイトスピーチの予防のために、犯罪として規定することには重要性があり、危険性の抑止‣減少を効果が期待されている。しかし処罰という手段は、効果を上げづらい。「国内人権機関」は、処罰の効果より、取り締まりの効果、統制の必要性に正面から取り組むものである。
<世界の国内人権機関>
国内人権機関は、1947年国連経済社会理事会決議に基づく機関である。世界120ケ国以上に設置され、無い国は、アメリカ、中国、ロシア、日本など少数である。未設置の国にも、アメリカの「EEOC」やロシアの「人権全権」など、代替する機関がある。しかしロシアの機関は、プーチンの意を受けたオンブズパーソンが、ICC(国際刑事裁判所)から指名手配を受けている。またミャンマーのように、政府からの独立機関が不可能で、なくなった国もある。
韓国の国内人権機関は2001年に設立された。現在、そのメンバーは保守と革新が真っ二つに分かれている。国内人権機関は、決して平和な組織ではなく、人権のために「闘える場所」をつくろう! 闘う場所・舞台をいろいろな人が参加して、それを国の責任でつくろう! というもの。それが国内人権機関である。
<日本の国内人権機関の可能性>
日本国憲法下での、理想的構造はどうあるべきか。
日本国憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とある。この規定に応じて、「国内人権機関」を通じ「国際人権基準」を国内法制に実務的に反映させていく、憲法上の機関とするべきだろう。
政府から独立した機関であり、予算などは国が責任をもつ国家行政組織法の外に位置づけられる組織が望ましい。現在の人事院、会計検査院のような機関であるべきだ。同じように「内閣に 設置」(内閣府ではない)という形が望ましい。と、講演は終わった。
会場からは、次々と質問や意見が続いた。
国会は会期末も近づき、参議院選挙などを控え、市民、議員など忙しく参加者は30名ほどであったが、とても有意義な学習会だった。
さまざまな差別を受けている人たち、差別に取り組んでいる人たちが、「人権の国際基準」を目指し闘う「国内人権機関」。とても重要で大切な場所である。改めて、欲しい、必要だ、と強く思った。「国連・人権勧告の実現を!実行委員会」今後いっそう取り組みを強めて行きたい。
( まとめ 高木澄子 、 写真 石川美紀子、金朴優綺 )