第10回学習会の報告
これまで、結婚相手や就職希望者が被差別部落出身者かどうかを調べる、ということが繰り返されてきた。その時、情報源となるのが戸籍である。2008年の戸籍法改正で、戸籍が原則公開から原則非公開に転換され、本人以外による戸籍の取得は弁護士などの「8士業」に限定された。しかし、「8士業」者や調査業者による不正な目的や書類偽造による不正取得事件があとを絶たない。2011年に摘発され1万件も不正取得されていた「プライム事件」でも、首謀者の一人は 「探偵業界では戸籍の不正取得は蔓延」「明治時代から続いてきたような調査(部落問題のこと)「を求める人が多い」 という証言も出ている。また、こうした不正取得事件からは、個人情報の不正売買が全国的に行われている実態が伺われる。対策としては、大阪府では身元調査の規制条例があり、500の自治体(東京では12区)では本人への通知制度がある。
身元調査は、依頼者があってはじめて行われるものだが、その依頼者の意識のあり方については、2014年に公表された東京都の意識調査が紹介された。
「同和地区出身者との結婚について」
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2014/04/60o48123.htm
学習会ではごく一部が紹介されたが、過去(1999年)の調査と比べた時に「子供の結婚相手が同和地区出身者であった場合の対応」では、「「子供の意志を尊重する。親が口出しすべきことではない」が9ポイント減少」し、子ども自身の「同和地区出身者との結婚に反対されたときの対応」でも、「「親の説得に全力を傾けたのちに、自分の意志を貫いて結婚する」が7ポイント減少し、「絶対に結婚しない」が5ポイント増加」している。差別意識が改善しているとはいえない状況にあるようだ。
また、戸籍と並んで部落差別が行われる時に利用されるものとして「部落地名総鑑」といった被差別部落の一覧とされるものが存在してきた。現在でも、区役所などに「どこそこが被差別部落かどうか教えて欲しい」という問い合わせは多いという。さらに現在では、インターネット版の「部落地名総鑑」が存在し、誰でも簡単に閲覧可能な状態になっている。これは、現在でも差別意識が根強く存在していることの証であり、また、その存在自体が身元調査=部落差別を誘発する悪質なものである。
国際人権条約との関係で言うと、日本政府は人種差別撤廃条約に部落差別問題が含まれると認めていないということだった。また、国連の「コンピュータ化された個人データ・ファイルに関するガイドライン」(1990年)の「非差別の原則」と戸籍は矛盾するのではないかという指摘があった。国内法においては、同和対策事業特別措置法が2002年に終了し、2000年には人権教育・啓発推進法が制定されたが、「人権侵害救済法」は頓挫している。
現在、東京都では人権指針の見直しが進められており、当事者運動は連携して働きかけてきたが、まもなくパブリックコメントが行われるはずなので、その時は注目して意見を送ることが呼びかけられた。質疑応答では、自身も被差別者だという人から、もっと被差別体験を語って欲しかったという意見があった。また、本人への通知制度については日弁連の反対があるがという質問がだされ、日弁連と本人通知制度の推進に賛成する弁護士との間で話し合いが進められているとのことだった。また、東京の教育現場では、2000年の人権教育・啓発推進法のころから、個別具体的な差別について教えることができなくなったのではないか、という意見があった。
今回の学習会は、いまはもう存在しないかのようにすら言われる部落差別について改めて知る貴重な機会となった。「どこそこが被差別部落かどうか?」を調べること自体が部落差別である、ということを改めて確認しなければならないと思った。また、部落差別には、本人が気づかないうちに出身地が調べられ、本人が知らない間に部落差別によって排除・差別される、という構図があることも学習会で指摘されたが、このことは、自分は部落差別と関係ないと思っていても、社会に部落差別が存在する限りは、誰もが知らぬ間に被害を受ける可能性があるということではないかと思った。
次回の学習会は5月10日(日)14:00~17:00、スマイル中野(東京都中野区)4階多目的室にて、「「女性活躍推進法」と「国家戦力特区での外国人家事支援人材の活用」」をテーマに行われます(資料代500円)。どうぞご参加ください。