第11回学習会の報告
第11回学習会は「『女性活躍推進法』と『国家戦略特区での外国人家事支援人材の活用』―“加害者”にも“傍観者”にもないたくない」という長いタイトルで行われた。
講師は、働く女性のセンター代表でライターの栗田隆子さん。彼女は、いつもは非正規労働者のいわゆる「当事者」として話すので、「当事者」ではない立場で話すのは初めて。この問題は周知も議論も足りず、今日はそれを皆さんと共に行いたいと前置きした。
「国家戦略特区での外国人支援人材」という当事者は、まだ日本には存在しない。私たちのネットワークの「国連・人権勧告」の根拠となるILO「家事労働者のためのディーセント・ワークに関する条約(第189号条約、2011年6月採択)」(以下家事労働者条約という)を、日本は批准していない。未批准の条約と当事者が存在しないテーマの学習である。それを行うのは、今後の女性労働者や男女労働者、そして外国人移住労働者に深く関わる大きな課題だからである。
栗田さんの話は、国家戦略特区による「外国人家事労働者」の導入は、「外国人だから」「女性だから」と放置される危うさがあるのではないか。外国人に家事支援させることが、日本の女性の活躍につながるのか、と始まり、女性活躍推進法と、家事労働者条約の「労働者」の基本的な違いを説明した。活躍推進法の目的は「自らの意思によって…個性と能力を十分に発揮して」であり、「家族を構成する男女が…職業と家庭生活の両立可能を旨とする」ための法である。あくまで女性労働者自らの意思でと法律の理念は統一されている。さらに男女で構成する家族が前提で、独身者や、1人親家庭、男女以外の組み合わせの家族については触れられていない。一方で条約は、労働者の「結社の自由、あらゆる形態の強制労働の禁止」を規定し、労働者としての団結の権利の保護措置を批准国に求めている。「自らの意思」という女性活躍推進法と「団結の権利」という家事労働者条約の、労働者についての基本理念の違いは大きい。日本政府はこの条約を批准する予定はあるのだろうか。
家庭という密室での労働に、法律が機能するのか、という問題もある。サウジアラビアでは、哺乳瓶からミルクを飲んだ際誤って窒息死し、それは事故死だと訴えていたスリランカの家事労働者に、斬首刑が執行された。
家事労働とは、そもそも家庭を営む人間が共同で生活する者として担いあうものではないのか。
次に大きな問題として、栗田さんは30年前の悪夢のラインアップが再び来ているのでないか、と指摘した。労働の規制緩和と女性労働者の分断が始まったのは、1985年に雇用機会均等法、労働者派遣法が成立してから。それらの法律成立以前は、基本的には労働者にはすべて「労働基準法」だけが適用された。しかし均等法で正規雇用の女性労働者が、男性並みに働く女性と一般職に分断された。派遣法により、派遣労働者に対しては「雇い止め」というかたちの突然の解雇を可能にするなど、事実上労働基準法が無化され、正規雇用と非正規・派遣の労働条件の格差は広がり、女性労働者の分断は進んだ。それは女性のみならず、いまでは男性労働者にも広く及んでいる。
そして今回の悪夢のラインアップでは、そこにさらに不安定で、低労働条件の外国人労働者を加え、さらに労働者間の格差を拡大させ、分断を進めようとしていることである。
労働者、労働運動として大切なことは「例外を絶対つくらせないこと」「外国人を例外にしないこと」と強調した。
栗田さんの話を受け、会場からも活発な意見や報告があった。
・アジア女性資料センターは移住連とともに、ワーキングチームをつくってこの問題に取り組んでおり、福島みずほさんの質問書作成にも協力した。この法律は成立しそうだ。家事労働の内容も明確でなく、介護労働と家事労働をいっしょに派遣会社が受けいれるだろうが、その監督機関はなく、受け入れ調整機関もない。今後ロビー活動を展開し、メディアを巻き込んで、取り組んでいきたい。
・シングルマザーで長年派遣労働者として働いてきた女性は、均等法は成立時「小さく産んで、大きく育てる(まずは成立させ、後で良い法に改正させていく)」と言われたが、これだけ差別・格差を拡大した。今回の規制緩和も特区にとどまらず、日本の労働市場に進出しワーキングプアの女性がどんどん入っていくようになる。
・男性からは、息子が30歳を過ぎても自分で食べていけない状況だ。若者、子どもの貧困化が進んでいる。日本の労働者の権利、移住労働者の権利について、話し合える土壌がどんどん失われている。
・自らをUターン移住労働者と言い、23年前にペルーから日本に来て、いま南米の日系人の移住労働者の相談などをしている女性の発言は以下のようだ。労働者の送り出し国〈南米など〉と受け入れ国(日本)の賃金格差は歴然としており、働きに来たいという人は多い。当事者と支援団体のセッティングをしているが、日本の支援はパターナリズムの可哀想な人の支援で、末端の労働者とのつながりがゼロだ。そして移住労働者は、日本に居ながら日本の状況や社会問題を知らない。こういう状況を変えて、労働者としての真の対等な連帯が重要であると訴えた。
上記以外にも意見や感想が出て、会場との意見交流も活発に行われた。課題はとても大きい。今回の学習会をきっかけに、問題の認識を深め、取り組みを広げて行かねばならない。
(まとめ 高木澄子)