2016年7月10日日曜日

第16回学習会の報告

第16回学習会の報告


●テーマ 「日本の人権は、国際的にどう扱われているのか?」
●講師 寺中誠さん(大学教員、アムネスティ・インターナショナル日本元事務局
長)
●日時 2016年6月23日(木)18:30~20:45
●場所 連合会館5階 501会議室

▼そもそも人権とは役に立つものなのか?
 人間が社会で生きていくためには依存できる社会資源(お金、権力、能力…)が必
要。社会資源が圧倒的に不足していて救済手段がない場合の最後の手段が「人権」。

▼人権の二つの意味
 1)十分な社会資源を持つための法的根拠(自由・平等・博愛)
 2)社会資源の圧倒的不足の際に補完的に機能する救済手段(マイノリティ=権利
から排除された人のための人権)

▼人権アプローチと福祉アプローチ
 福祉:与え、施すものであり、パターナリズム・平等原則に基づく
    判断する権限・パワーは、施す側にある
 人権:求め、訴えるものであり、ニーズベース
    必要がある権利者側が、義務者に対して請求する
    判断するのは権利者側

▼国際的な人権保障体制
 国家・政府は、条約等の体制により、国際社会(国の集まり)からの国際的義務に
基づき、権利者の権利実現のための国内法的義務(最も具体的かつ有効な措置)を
負っている。
 権利者の権利実現と国際社会とは直接の権利保障関係にはない。
 NGOは、国連憲章第71条に基づき、各国に国際的義務を果たすよう働きかけつつ、
最も効果的に権利者が救済されるよう、国内法的義務の実施に向けた情報収集と働き
かけを行っている。両者をつなぐ役割を担っている。

▼グローバル化と人権
 国家(Nation-State)とグローバル化(Globalisation)のバランスが前提の世界
としてある。その世界の中で、安全保障(Security)と自由(Freedom)が対峙し
あっている構造。
安全は、規制や福祉アプローチと親和性が高く、自由は権利と親和性が高い。だが、
安全には軍事力・警察力という権利侵害を起こす力が関与するし、自由に関しても強
い側が自由を主張することで他を圧倒してしまいがち。両者のバランスをとることが
大事。どちらか一方が増大すると、他方が締めつけられる。

▼国際人権法の国際的実施手続
-国連機関
・OHCHR(人権高等弁務官事務所)
・特別手続(特別報告者、作業部会、事務総長特別代表)
・総会および人権理事会/普遍的定期審査(UPR)
・女性の地位委員会、先住民族の権利フォーラム 等
-条約機関
・自由権規約委員会、社会権規約委員会
・人種差別撤廃委員会、拷問禁止委員会、同小委員会、女性差別撤廃委員会、子ども
の権利委員会、障がい者権利委員会、移住労働者の権利委員会
-各種ガイドライン/勧告文書

▼国際人権法を国内で実施する
 憲法98条2項で「誠実遵守義務」が規定されており、国内実施のための政策提言機
能を担う国内人権機関の設置が求められる。しかし、行政は憲法問題を判断すること
はできず、むしろ国家行政組織法等により、国内行政から、国際人権法/憲法の体制
が切断されてしまっている。

▼パリ原則と根本的に異なる日本の状況
 これまでの条約機関の勧告のほぼすべてが、日本に「パリ原則に沿った」国内人権
機関を設置するように勧告している。しかし、国内人権機関の独立性の要件を満たさ
ない、行政府付属型(法務省/内閣府)の提案しか出されていない。また、国際基準
とは機能が大幅に異なる、個別救済特化型である。
 パリ原則に沿った国内人権機関は、①政策提言(監視)機能、②国際協力機能、③
調査・研究・広報機能、④個別救済機能を持っている。①が最も重要である。また④
は、公権力による人権侵害を扱うことを重点目標とするよう補完的機能として追加さ
れたものである。しかし、日本の構造では、①も②もほとんど無く、④に重点が置か
れ、しかも肝心の公権力による制度的な人権侵害には、ほとんど関与できない。

▼現在の法務省の人権擁護行政
 全国に約14,000の人権擁護委員を配置して、各法務局を窓口として設置している。
2013年に手続開始した人権侵犯事例数は22,437件で、同年の処理数は22,172件。しか
し、そのうち20,663件は「援助」(法律上の助言を行ったり、関係行政機関や関係あ
る公私の団体等を紹介すること)で、事実上、アフターケアのない「たらいまわし」
がほとんどである。

▼日本に必要なのは人権政策
 国内情勢から考えても、実際に望まれているのは、個々の事例の救済機関ではな
く、政策提言機能と国際協力機能を備えた国内人権機関。さらに、明確な差別禁止法
が必要。
日本では、公権力が設定した制度によって迅速かつ実効的な救済が阻まれており、制
度改善のための司法的アクションにほとんど効果がない。人権保障のための明確な政
策方針がなく、必要な社会的資源を得る権利が恩恵措置としかみなされない。被差別
当事者の声が反映されるための政策のための場がなく、差別禁止法がないため、差別
事例に行政的・司法的アクションを期待できない。

▼国際人権機関による日本への視座
 公共の福祉による人権制限があいまいかつ恣意的な基準でなされている(人権制限
のための国際人権法上のルールを明確に法制化するよう勧告されている)、刑事司法
での無罪推定の徹底、死刑制度の存在、行刑施設の閉鎖性、日本軍「慰安婦」問題、
外国人・在日・部落・先住民族への差別、女性差別・性的マイノリティ差別。
 国際人権法上の基準⇔日本の理解。①法定主義⇔「公共の福祉」、②制限の必要性
⇔必要性、③制限と手段の合理性⇔合理性、④制限の相当性⇔個別判断。

●質疑応答
1.国内人権機関で独立性がしっかりしている国は?
→近年ではモンゴルの国内人権機関が行政府・立法府から独立しているとされてい
る。

2.国内人権機関について、財政的に独立とはどういう意味?
→申請ベースで予算請求をして、後に予算が減らされたりしないということが重要。

3.条約と行政との関係がよく理解できなかったが…
→行政は、条約に関する問題については憲法に関わることなので司法に問うてくださ
い、という立場。例えば、明石市は婚外子に関する最高裁判決を受けて国際人権基準
に沿う形での出生届の書式の変更を行ったが、法務省は現在の国内規定に基づく書式
に反していることのみを理由に「法令違反」として指導した。

4.公安警察からの暴力事件について、国際裁判所に訴えられる?
→係争中ということであれば、できない。国内の救済手続を尽くしていないため。

5.子どもと引き離された親の問題について
→弁護士の中でも、ハーグ条約に賛成する派と反対する派など分かれている。解決策
としては、共同親権しかないのでは。

6.相続差別の撤廃と出生届の書式について
→日本の人権問題のかなりの部分は戸籍にある。戸籍撤廃運動はとても大事。