第22回学習会の報告
◎タイトル「表現・報道の自由の現状は」
◎講師 永田浩三さん
永田さんの講演は、最新の情報や、話題になったことも交え、分かりやすく、納得いく内容のお話だった。
まずは、自己紹介としてかつて、安部総理がNHKの慰安婦番組に介入し、番組改竄を指示したときの当事者であったことから話し始め、今その安倍政権の異常さは究極なところまできているが、メディアが追求しないことが大きな問題だと指摘。そして、国連総会でのトランプと安部の戦争の危機を煽るような発言を紹介したが、安倍の発言のときは、空席が目立っていたと。憲法は平和を愛する人との国境をこえた協力を唱い、ドイツのメルケル首相等からは、あくまでも対話による解決に尽力すべきで、その責任を引き受ける用意があると発言があり、韓国の文大統領は、演説の中で平和という言葉を30回も使って危機打開を訴えた。北朝鮮のミサイルは石破自民党議員も言っているように、日本の上空侵犯でもなく、アメリカに向けられたものなのに、まるで日本が戦争危機にあるような雰囲気が作られ、大学にも対策の報告要請が来ているとのこと。かつて信濃毎日の記者だった桐生悠々は、「訓練は無意味だ、外交で戦争させないことが大事。」と言って、陸軍の怒りを買い新聞社を去ったが、その意思は今にも受け継がれ、先日の朝鮮学校判決についての信濃毎日の社説はすばらしかった、と紹介があった。まとめてみると、専門知識のないコメンテーターが登場し恐怖独裁者の意図に沿って発言するなどメディアが危機を煽っていると言える。
しかし、たった一人でも声を上げる人が出てきた。亡くなった加藤周一さんは「同級生の死を二度とふたたび殺してはならない。小さな私は世界と同じ重みがあるのだ。」と言った。 長崎の原爆忌では、安倍総理にたいして「安倍帰れ、どこの国の総理だ。」との声が飛んだ。東京新聞の望月記者は菅官房長官に防衛予算などが国会の論議を経ずに作成されていることなどを鋭く追求して、官邸に睨まれている。今、官邸は記者の質問の人数と時間を制限しようとしているが、記者クラブが同意するなど問題だ。また、加計問題を告発した元文部官僚の前川さんは夜間中学や朝鮮学校にも暖かい目を注いできたが読売などからの攻撃もうけてきた。メディア間では、政権を追求する側とすり寄る側の激しい争いも起きている。官邸側のコメントを言ってきた山口元TBSワシントン支局長のレイプ事件は、逮捕直前まで行きながら、直前で釈放された。ここには元菅官房長官の議員秘書で警視庁刑事部長だった中村格の指示があったと思われる。政暴走の本質である政治の私物化とそれとは反対の公共性の衝突が起きている。
今年の5月に強行採決された共謀罪は現代の治安維持法と言われているが、かつて横浜事件と言われた冤罪事件では、共産党の謀議容疑で中央公論と改造社を潰す目的で、旅館で同宿していた多数を逮捕、拷問で死者も出した。次は朝日、岩波が狙われる予定で、政府に批判的な言論封じの目的に使われた。横浜事件の遺族である、木村まきさんはこのような事件を2度と起こさせないために、今、国会前の「共謀罪」反対行動に参加し、また、この事件についての資料は焼却されたことにも疑義を唱え、1986年から第4次再審請求まで23年間訴訟を続けている。「共謀罪」成立によってどのような社会がやってくるのか。無理筋の最たるものが「戦争」だが、権力の側は国家に反逆しかねない人たちを監視し、その団体にはスパイを送り込み扇動させて警察に通報するなどまで行う。今行われている脱原発や基地反対、環境問題、PTAや労働組合、政党などにまで網をかけて監視するだろう。2016年4月に国連特別報告者のディビッド・ケイさんが来日したときに関わったが、関係者のヒアリングの中から、日本の表現・報道の現状に危機感を持っていた。日本政府は、拉致問題では国連に訴えるが、言論の自由やプライバシー権では冷笑し、無視すると言うダブルスタンダードな立場をとっている。憲法21条は表現や報道の自由を謳い、放送法では「政治的な公平性」が書いてあるが、政府はそれを悪用して政権に批判的な報道規制を図った。元朝日新聞記者植村さんや朝日新聞に対する安倍総理自らが国会で追及したようなことをディビッドさんは由々しきことと指摘し、面会したジャーナリストの多くが政権ににらまれないように匿名を希望した現実に驚き、ジャーナリストの連帯の必要を示唆した。反ナチ運動の指導者ニーメラーさんの1946年ごろのあまりにも有名になった詩の引用。「ナチスが共産主義者を攻撃したとき私は声を上げなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから、~~~~~~、そして私が声を上げたとき私のために声を上げるものは誰一人残っていなかった。」
この夏、NHKの戦争特集番組は好調だったようだが、それにはNHKの会長の交代などいろいろ考えられるが、チームとしての継承性があることも事実だ。公共財としてのメディアは、困っている人、声を上げられない人のために寄り添い、調べ、読み込み、論を立て、伝えるという作業が大事だ。それは憲法13条「個人の尊厳と幸福の追及権」の保障でもある。
最後に1950年のヒューレット・ジョンソンの言葉が引用された。「百万の署名は彼らを激怒させるだろう、千万の署名は彼らを混乱させるだろう、そして、億の署名は彼らを沈黙させるだろう。」
講演の後は、多くの参加者から質問や発言が出され、活発な意見交換が行われた。