2020年10月2日金曜日

第35回学習会の報告

第35回学習会の報告

日時:2020年9月25日

タイトル:自由権規約委員会・日本審査にむけて~腐敗するニッポン、壊死する政治---それでも私たちは人権をあきらめない~

講師:前田 朗(東京造形大学)


1 人権が21世紀の主要課題

「国際人権法」という言葉が定着してきた。国際的な文脈で世界の人権問題を考える、ということが共通認識になってきている

1948年の世界人権宣言や1965年の人種差別撤廃条約、1966年の国際人権規約、2006年の強制失踪条約など。約70年かけて国際人権の枠組みが作られてきた

しかし、世界中で今もなお人権問題が起きている~アメリカのBLM、ロシアの暗殺未遂、中国の香港問題、ウクライナの独裁、難民の現在、アフリカのバッタ・飢餓、欧州のイスラモフォビア、世界を覆う新型コロナ禍と格差社会問題など


2 日本の現場と国際人権の現場をつないで考える

すべての人が守るべき基準が国際人権の基準。どういう国、地域、宗教、民族であろうが共通で守るべき最低の基準。それが国際人権の考え方

日本軍「慰安婦」問題は今も解決に至っていない。それどころか被害者や被害者を支えてきた団体を叩く状況になっている。「慰安婦」問題は日韓問題ではない。東アジアで広く行われた日本軍の政策的な暴力。女性に対する暴力という枠組みで国際的に長らく議論されてきた。近代の世界史における現象として捉えられてきたのに、未だに日本ではそのような議論がなされていない

関東大震災朝鮮人虐殺を単に国内における偶発的事件としてではなく、「コリアン・ジェノサイド」として世界的なジェノサイド研究の中に位置づけなければならない


3 国際人権法の枠組みはどうなっているか

ジュネーブに初めて行ったのは1994年。きっかけは「チマ・チョゴリ事件」~日朝や日韓の関係が緊張すると朝鮮学校生徒に暴言・暴行が起きた。日本では当時は「嫌がらせ」と表現され、適切な表現がなかった。しかし、ジュネーブではこれがヘイトスピーチ、ヘイトクライムと言われていた

1994年8月から今年まで、毎年3月と8月にジュネーブに通ってきた

国際人権文書としては、人権条約、人権宣言など多くの文書が作られている

日本ではようやく国際人権法という言葉が使われてきているが、国際的には「国際人権人道法」という言い方が増えてきた。人道は、たとえ戦争中でも人権が守られなければならない、という発想。昨今は、戦時とか平時という区別は重要ではない、どんな事態であれ人権と人道は守られなければならない、並べて考える、という形になってきている

人権条約に基づいて人権委員会が作られる

日本政府が批准して報告書を出しているのは8つの条約。自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約、強制失踪条約、障害者権利条約


4 国際人権法から見た日本

国連人権理事会・普遍的定期審査UPR~日本は前回2017年に行われ、2018年3月に人権理事会で勧告が採択されている。他国の審査のときは日本も勧告を出している

条約委員会の審査・勧告~最初は1979年。これまでとても多くの勧告が出ている

人種差別撤廃委員会2018~ヘイトスピーチ、朝鮮学校の「高校無償化」制度からの除外問題など多くの問題が取り上げられた

強制失踪委員会2018~11月に委員会が開かれた。日本政府は拉致問題を取り上げてもらうということで、詳しくレポートし、国内では事前に大宣伝した。それなのに審査後、一切報道も記者会見もなかった。後日、外務省のウェブサイトに強制失踪委員会への感情的な抗議文が載っていた。実際の審査では、委員会が拉致問題を取り上げず、「慰安婦」問題を取り上げた。日本政府はジュネーブでパニックになっていた。これに対して日本政府は、「慰安婦」問題は条約よりも前の事件であるから、委員会が取り上げるのは適切ではない、と言った。これはどの委員会でも日本政府が主張していることだが、これを言ったらどうなるか? 強制失踪委員会は2009年に日本が批准したから、拉致問題も取り上げてはいけないことになる。つまり日本は「拉致問題を取り上げるな」と国際舞台で主張したことになる。それなのに、日本のメディアは一切報道しなかった


5 自由権規約委員会と日本

1998年 第4回報告と委員会勧告

2008年 第5回報告と委員会勧告

2014年 第6回報告と委員会勧告

202*年 第7回報告


6 前回勧告の概要

冒頭で多くの勧告が履行されていないことの指摘

国内人権機関~日本には政府から独立した国内人権機関がない

選択議定書~人権侵害の被害者が個人的に委員会に通報できるシステム。日本は批准していない。自由権だけではなく、いかなる個人通報制度も日本は認めていない。日本では、人権侵害被害者本人は、国連に訴えることができない。韓国は批准しているので何度も訴えていて、何度も勧告が出ている

男女平等、DV

LGBT差別

ヘイト・スピーチと人種差別

死刑

「慰安婦」性奴隷慣行

人身取引

技能実習制度

非自発的入院

代用監獄と自白強要

庇護申請者・不法移住者の退去・収容

ムスリムの監視

拉致及び強制改宗

公共の福祉と人権の制限

特定秘密保護法

福島原子力災害

体罰

先住民族の権利


7 第7回日本政府報告(事前質問票への回答)

今回からスタイルが少し変わった。従来は日本政府が自分で報告書を作ってジュネーブに送り、委員会から質問が出ていた。今回は、リストオブイシューといって、委員会が事前に出した質問書に対して、政府が報告を出すというスタイルに

勧告実施措置、統計データ、法曹研修~非嫡出子の法定相続分の差別の是正、ヘイトスピーチ解消法、強制性交等罪関連など、勧告実施に向けて少し改善があったと言えるのでは。しかし、離婚した女性の再婚禁止期間の問題はちゃんと改善(180日→100日になっただけ)されておらず、相変わらず差別的な規定のまま

第一選択議定書

憲法97条廃止提案~基本的な人権は不可侵である、という条文。将来の国民の人権も永遠に保障されるのだ、という条文。これが自民党の改憲案では全部削除されている。委員会からこれについて質問が出ている。日本政府は、それは国会がやることで政府は関知しない、という回答をしている

国内人権機関

反差別、非嫡出子

ヘイト・スピーチ、ヘイト・デモ、差別動機の刑罰加重~2016年のヘイトスピーチ解消法を作ったときのことの報告をしている。ただ、ヘイトクライムの定義はない、などの言い訳をしている。差別動機の犯罪について刑罰を加重しなさい、と委員会から言われている。このヘイトクライムの重罰規定はヨーロッパでは当たり前、アメリカにもある。しかし日本は裁判官の裁量があるので大丈夫です、と言っている。しかし、加重されたことはこれまでない。それが問題

LGBT差別~同性パートナーが公営住宅に入ることができるようになったので、日本政府はそれについて報告している。しかしまだまだ差別が残っている

女性の再婚禁止期間、最低婚姻年齢、マイノリティ女性

緊急事態と憲法改正、共謀罪

DVなど女性に対する暴力~鋭意努力してます、という感じの報告。DVについては報告しているが、セクシュアル・ハラスメントについてはあまり書いていない。ちゃんと書くべき

死刑、拷問、公正な裁判~死刑囚の精神衛生の問題、再審請求中に死刑になった問題など、たくさん指摘されている。拷問その他の強要によって自白させられ、自白に基づいて死刑になっている問題など。袴田巌さんのことも指摘されている

原発事故・被曝~甲状腺がんが増えたではないかという問題、避難解除をしたことについて被爆の恐れはないか、などの質問。日本政府は、福島県は避難者の住居支援を打ち切っているが、個別にちゃんと支援してます、という木で鼻をくくったような回答している

優生保護法・障害者不妊手術、措置入院~母体保護法に改正されている、謝罪・補償の方向に行っています、と報告している

代用監獄、保釈、取調べの弁護人立会~取り調べ状況を録音・録画するようになった。ただ、検察官の取り調べよりも警察の取り調べが重要。弁護人立ち会いがないことや、立ち会い時間の決まりがない、取り調べにおける人権尊重のガイドラインがないことなどの問題がある。ヨーロッパ諸国はみんなガイドラインを作っている

独居拘禁、刑事施設医療~刑務所に収容されている受刑者の独居拘禁の問題。受刑者をずっと一人で誰にも会わせないことは重大な人権侵害。日本には10年、20年独居拘禁されている人が何人もいる。面会する家族もいなければ、誰とも会えない。これをやめなさい、と言われている

「慰安婦」性奴隷制~日本政府の立場は、条約以前の問題なので取り上げるべきではない、しかし報告する、アジア女性基金で終わっている、にもかかわらず日韓合意で努力している、性奴隷制という用語は不適切、というもの。今回は、事実を否定するということは毛頭考えておりません、と報告している

性的搾取・強制労働~人身売買の問題

外国人研修生・実習生

難民、退去強制、収容代替手段

プライバシー、ムスリム監視

憲法21条改正案、メディアの検閲

特定秘密保護法~表現の自由との関係で色々質問されている

日の丸君が代強制

平和的な集会規制~公民館の使用拒否問題など

選挙権停止、外国人選挙権~地方自治体の選挙権について認めなさい、という委員会の他立場。しかし日本政府はあくまで認めない方向

マイノリティの人権、在日韓国・朝鮮人、朝鮮学校高校無償化問題、年金問題~日本政府は「マイノリティ」を「少数民族」という訳を使ってきた。しかし、マイノリティ=少数民族ではない。少数民族ではなくてもマイノリティはいる。かつて日本政府は「在日朝鮮人は少数民族ではない、だから日本にはマイノリティはいない」という言い方をしていた。だから初期の報告には在日朝鮮人のことも朝鮮学校のことも出てこなかった。ところが、今回の報告書では、マイノリティの権利について質問されたときに、日本政府の報告書94ページに「少数者」という訳が出てきた箇所があった。日本政府は、自己の言語を使用する権利を否定していない、という回答。在日コリアンが少数民族に該当するか否かを判断する必要はない、と答えている。これは結構微妙な問題で、マイノリティについて日本政府の対応が変わってきているのかもしれないが、はっきりしない。朝鮮学校の「高校無償化」問題、在日朝鮮人の無年金問題についての委員会からの質問については、日本政府は従来通りの回答。審査基準に適合すると認めるに至らなかった、外国人にも年金制度は適用してますよ、といったもの


8 人権NGOの取り組み

コロナ禍の中で今後の委員会による審査がどうなっていくかは不透明

どの委員会も審査が延期になったり、オンライン審査を試したりしている

国内活動

・反差別と人権問題の発掘、対処

・NGO間の情報交換

・対政府・省庁交渉

・対メディア、市民集会……

国際活動

・ジュネーヴへの情報発信

・ジュネーヴでのロビー活動

・ジュネーヴから情報発信

・地域間の情報交換・協力

・東アジアの人権状況

  一つひとつのNGOにできることは限られているが、横のつながりを広げて具体的な問題の解決を図りたい


★参加者数:講師含め20人