2020年1月26日日曜日

第32回学習会の報告

第32回学習会の報告

テーマ 国際人権基準から見た日本の刑事司法・刑事拘束
講師 海渡雄一さん

1、未決拘禁(人質司法)問題
カルロスゴーン事件に関連して
厳しい保釈条件
①住居出入り口に弁護士による監視カメラの設置
②海外渡航禁止、パスポートは弁護士が管理
③事件関係者との接触禁止
④パソコン携帯電話の使用制限
⑤妻との接触禁止(弁護士立会いの下、月1回1時間のテレビ電話による通信のみ可)

問題点
・起訴前保釈の不在
・「罪証隠滅」による保釈拒否(保釈拒否は基本的には「逃亡の恐れ」に限られる)
・一事件につき23日の勾留継続(事件を細分化すれば、23日×事件数)
・弁護士不在の取り調べ
・長期間の接見禁止(弁護人以外家族とも会えない)。未決は誰とでも会えるのが原則。

警察に拘禁される期間
 フランス   24時間、最大48時間   イギリス   24時間、最大72時間
 イタリア   24時間          台湾     16時間
日本     23日×事件数  (国際基準としては、逮捕後24~48時間)
自由権規約9条 逮捕された被疑者は速やかに裁判官のもとに連れていかれる。
同9条に対する一般的意見(規約委員会の条文解釈)では、「速やかに」とは通常は48時間で十分、超えるのは絶対的例外。未成年は24時間以内。
 日本の場合、取り調べ時間の制限と弁護士の立会いを同時に進めることが必要。

代用監獄制度の廃止
 37年前は、イスラエル、ハンガリー、フィンランド、韓国、イギリスのテロリスト事件でもやっていたが、自由権委員会等からの勧告を受け全てなくなった。現在は日本のみ。

証拠の開示
 検察の証拠全てにアクセス権
アメリカでは、証拠隠しは、検事を続けられない。
日本では検察に都合の悪い証拠を隠すのが当たり前のようになっている。

司法改革の試み
2009年~10年村木事件と検察による証拠捏造などを受け、刑事司法の見直しが行われたが、未完に終わった。
証拠リストが出るようになった、国選弁護の範囲が広がった、一部取り調べで・録音・録画がなされるようになった等の改革はあったが、他方で、通信傍受の拡大、司法取引などが導入された。

2、死刑制度
昭和23年最高裁判決は、死刑を合憲としているが、「多くの文明国で死刑が廃止されれば、死刑は憲法13条の生命権を侵害する刑罰と言える」と読みとれる部分がある。
しかし、合憲判断があったと言うだけで思考停止している。

死刑制度の中でも改善すべきこと
・執行日時を事前に説明する。
・検察証拠のすべてにアクセスできるようにする。
・再審請求中・恩赦の申請中に死刑を執行しない。
 1950年ごろ以降、一応、再審請求中の執行はしないという原則があったが、今は、再審請求中であってもお構いなしになっている。

国際的には
・OECD加盟国で死刑を執行しているのは、アメリカと日本だけ。アメリカも多くの州で死刑を廃止したり執行を辞めたりしている。
・日本では、昨年12月安倍政権下で39人目の死刑が執行された。
・2017年11月国連人権理事会では、日本の第3回普遍的定期的審査で、36ヶ国が死刑廃止に関する勧告を行った。
・自由権規約は死刑廃止を義務付けてはいないが、無くすよう努力することを求めている。日本政府はその努力を怠っている。

3、受刑者の人権
刑事拘禁の国際ルール(マンデラルール)
2016年国連被拘禁者最低基準規則を60年ぶりに改訂
①規律秩序の維持
 1)不必要な制約の禁止 2)懲罰規定の改正 3)独居拘禁の厳しい制限 4)身体検査・捜索の厳格な限定
 ②医療の独立性の確保
 ③受刑者の法的援助へのアクセスの保障
 ④スタッフの専門的な研修

刑務所医療の現状 最新のCPRへの相談事例より
・医師の診断を希望しても、看護師に拒否される。
・刑務所の医師の対応に不満がある。
・治療、検査、処方について十分な説明がない。
・専門医の診療を受けられない。
・入所前服用していた薬を処方してもらえない。
・体調不良や疾患を考慮した作業や休養が認められない。
・対応の遅れによる症状の悪化。

2002年名古屋刑務所事件
革手錠による内蔵挫裂で死亡するという事件が起こった。
・事件を受け、国会決議で過去10年分の死亡ケースが公開された。約1600件のうち急性心不全が何百件もあった。特に、数十件の非常に疑わしい死亡事例が発見され、100年ぶりの監獄法改正につながった
・1998年自由権規約委員会は、刑務官による報復行為に対し、申立てを行った受刑者の保護が不十分であること、残酷で非人間的な扱いである革手錠のような保護手段の多用について警告していたが、対策はとられず、事件は起きた。こうした事前の活動があって、事件後改革につながった。
・刑務所内が閉鎖的で独立医療が欠けていると危険が大きいと訴え刑事施設視察委員会ができ、弁護士会推薦の弁護士と医師会推薦の医師が必ず入ることになるなど一部改善がなされた。
社会と同水準の医療を保障することが監獄法に明記されたが、その後も刑務所の保安体制に組込まれた医師が一体となって受刑者を虐待し暴動になった事件が起きている。

フランスの刑務施設医療制度
・受刑者が市民と同じ医療制度に組み込まれる。
・各刑務所に、病院の外来部門がある。
・刑事施設の一部に近隣精神科病院の一部局が置かれている。
・48時間以内の入院は、近隣連携病院に入院する。
・48時間を超える入院は、大病院の中の「刑事施設区画」に送られる。
 フランスでも同様の問題があったが、1994年刑務所医師の告発を機に抜本的見直しが行われた。
改善の決め手は、刑務所の医療の独立
 2007年拷問禁止委員会は、刑務所医療の厚生労働省への移管を検討するよう求めた。

無期懲役刑の現状
・1960年代までは、15年~20年で仮釈放されることが多かったが、現状は、事実上、終身刑になっている。
・無期懲役受刑者数
 1989年 864人     1999年 1002人    2004年 1352人
 2009年 1711人    2013年 1843人    2017年 1795人
 ‘13年をピークに減っているが、仮釈放が増えたのではなく獄中死亡が増えた結果。
・2009年からの10年間で、無期刑の仮釈放は67人、獄中死亡210人
 無期刑者の在所期間 30年以上 14%、 40年50年たっても出られない人もいる。
無期刑者の年齢 60歳以上47,6%  70歳代18,3%  80歳以上4,8%(87人)  
・仮釈放審査
 30年で必ず審査されるようになったが、認められたのは2割のみ。

4、死刑廃止後の代替刑
・世論調査では、死刑廃止は、賛成2割程度、反対は約8割
 死刑廃止の代替刑として、仮釈放なしの終身刑があれば、それでも良いという人は数割
増える。しかし、これは緩慢な死刑であり、国際基準では認められない。
 判決言い渡し時点では終身刑だが、その後の状況を見て無期刑への減刑の道を残し、かつ、無期刑を改革して、死刑廃止ができないか。
・世界的な終身刑の状況
 終身刑制度 183ヶ国地域 内149が最も厳格な刑罰、33が死刑・終身刑とも廃止
 仮釈放のある終身刑 144、 仮釈放のない終身刑 66

5、今後の改革の方向
・国際基準に程遠い未決拘禁制度は抜本的改革
・死刑制度の廃止
・刑務所医療の改革
・罪を犯したものを排除しない社会を ― 更正が認められれば、社会復帰ができる