2018年3月4日日曜日

第24回学習会の報告

第24回学習会の報告

UPRの対日審査って何? 各国から日本への人権勧告
~国連人権理事会の普遍的・定期的審査~

日時 2018年1月29日(月)18:30~21:30
会場 スマイルなかの 4階 多目的室
講師 北村聡子 弁護士(日本弁護士連合会・国際人権問題委員会 副会長)

1、UPRとその意義

 国連のUPR(Universal Periodical Review=普遍的・定期的審査)は、国連の人権機構改革の一環として2008年からスタートした、国連の人権制度の中では比較的新しい制度である。

 その最大の特徴は、193の国連加盟国がお互いに被審査国・審査国になり相互審査を行うという点にある。人権条約機関による条約審査の場合、その分野の専門家による「絶対評価」である。一方UPRは相互審査のため、自国でやっていないことは、他国にも言えないという意味で、「相対評価」の部分がある。その結果UPRの勧告を見れば、被審査国が他国に比べて劣っている分野があぶり出されることになり、それがUPRの特徴と意義である。

 審査の過程は、①被審査国とNGOがOHCHR(人権高等弁務官事務所)に報告書を提出。②国連理事会のUPR作業部会での審査と結果文書採択。審査時間は1か国3時間30分で、被審査国と国連加盟国の対話で行われる。この審査ではNGOは発言出来ない。③最終的に次回の国連理事会で、被審査国は、勧告に対する態度表明を行う。4年半ですべての国が審査される。

 審査のための基礎資料は、①被審査国の政府報告書、②OHCHR作成の条約機関・特別手続等の国連文書要約、③OHCHR作成の国連のNGO等から提出された情報の要約である。

 審査基準は、国連憲章、世界人権宣言、人権条約、国際人道法などである。

2、これまでのUPR日本審査と政府回答

 第1回が2008年に行われ、26件の勧告が出た。

 第2回は、2012年に行われ174件の勧告が出た。第2回の日本への勧告は、その数の多い順から「未批准条約・議定書の批准」「死刑」「女性差別」「DV、人身取引」「差別」「刑事拘禁」などであった。

 それに対する政府の回答は、「フォローアップすることに同意する」118件(68%)。「部分的にフォローアップすることに同意する」7件(4%)。フォローアップすることに同意するという回答は、単にフォローアップするというだけで、勧告を実現するという意見表明ではなく、「留意する」に近い。他国でこのような回答をする国は、調べた限りなく、日本政府独特の回答である。さらに「受け入れない」26件(15%)。「その他」23件(13%)で、その他は事実上受け入れないことである。こうしてみると、日本政府の態度は、ほとんどの勧告に対して実現しようとする姿勢が見られない。

 他の国と比較してみる、例えば韓国は、70件の勧告に対して「完全に受け入れる」が42件(60%)である。フィンランドは77%、インドは49%、イギリス69%、南アフリカは90%が、勧告を「受け入れる」と政府が回答している。

3、第3回UPR日本審査勧告の特徴

 第3回は、2017年3月にNGOが報告書を提出。審査を前にした10月、日本から多くのNGOがジュネーブに行き、プレセッションや各国のジュネーブ代表部へのロビーイングを行った。日弁連、グリーンピースジャパン、IMDAR(反差別国際運動)、沖縄国際人権法研究会、全国精神病者集団の5つのNGO は、UPR主宰のプレセッションでステートメントを読むことが許された。ロビーイングのポイントは、具体的な勧告案を示すこと、根拠となる正確で具体的な情報を提供することである。

 11月、人権委員会のUPR作業部会で審査が行われ、結果文書が採択され、246件(一つの勧告に複数国がかかっている場合それぞれカウント)の勧告が出た。前回に比べ数が増え、しかも具体的な内容の勧告が増えたのが特徴である。NGOの積極的な働きかけの結果と思われる。

 勧告の内容は(人によって分類方法に違いがあるため数は絶対ではないが)、差別関係66件、条約・選択議定書の批准31件、国内人権機関31件、死刑29件と続く。差別の内容は、女性、人種、LGBT等に関するものである。人種差別に関する勧告には、差別禁止法の制定を求める勧告が増え、ヘイトスピーチに言及した勧告、朝鮮学校高校無償化に関する勧告が新たに加わった。また福島、障がい者に関する勧告も増えた。さらに新たなものとして、ビジネスと人権、メディアの独立性、核兵器・被爆者に関する勧告がある。
UPRの相互審査であぶりだされた、日本が国際水準に比べ遅れている分野は、国内人権機関(120ケ国以上に存在)、個人通報制度(自由権規約について116ケ国が批准)、死刑制度(多くの国が廃止もしくは執行停止)、女性差別(ジェンダーギャップ指数は144ケ国中114位)、人種差別(38ケ国中37位、2015年Migration Integration Policy )である。また日本独自の問題が生じている分野として、メディアの独立、原発、被爆者等についての勧告も出た。

 これらの勧告に対し、今年3月に日本政府は態度表明をしなければならない。

4、UPRの課題と、私たちがしすべきこと

 UPRの勧告を日本国内で実現させていくことは、大きな課題である。政府はUPRにあまり重きを置いていないように思える。UPRの勧告は、出ただけで満足してはならず、政府・立法府へ働きかけの「きっかけ」として活用しなければならない。またメディアに働きかけ、まだマイナーなUPRを知ってもらい、世論を動かし、政府の意識改革を迫っていく必要がある。

 UPRの勧告は立法府に向けられているものも多く、行政府だけではなく、個々の国会議員へ丁寧な説明を行い、立法府に働きかけていく必要もある。実際、UPR審査に国会議員を連れていく国も増えている。国会も野党だけではダメで与党への働きかけも必要であり、日弁連ではいま、与党にも働きかけている。

 日本は国連から言われることにすごく反発する。以前は、国際連合を脱退して第2次世界大戦に突入した。安倍政権下、政府主導で進むいまの政治は、そこに戻っていくようで恐ろしい。ナチス政権の時、他の国は何も言えなかった。それに対し他の国も言えるようにというのが、UPRの制度でもある。

 北村弁護士の講演を聞いて、参加者は改めてこの会そのものが、「国連の勧告は実施する必要がない」という安倍政権の閣議決定に怒って発足した原点を確認。UPR勧告の実現にむけて、今後いっそう、国会・国会議員や、内閣府、外務省など各行政省庁に積極的に働きかけて行かなければとの思いを強くした。